蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

ヨーロッパカップ2015 ロッテルダム 総評

大会総評

今大会の総評としては、大本命が順当に勝ったという事でしょうか。ただこれまでヨーロッパの二強と言われた「オランダ・イタリア」と「その他」の差は確実に縮まっているように感じました。このような短期決戦の大会では特にそう感じますし、実際個々の試合だけを見ればジャイアントキリングが起こりうる状況も多々ありました。それでもこのような順当な結果が出た理由は、やはりまだ野球がヨーロッパでのマイナースポーツの一つに過ぎないという事。言い換えると、ヨーロッパの広い舞台で戦うにはまだ財政的な体力が追いついていないチームが明らかにある、という事です。

ここに今大会の最終順位と各チームの登録選手数があります。

1位. キュラソーネプチューンズ(オランダ)
選手24名(うち投手登録10名) / 監督コーチ3名

2位. ドラッシ・ブルノ(チェコ
選手23名(うち投手登録9名、3名は野手兼任) / 監督コーチ3名

3位. ASD・リミニ(イタリア)
選手21名(うち投手登録10名) / 監督コーチ5名

4位. ハイデンハイム・ハイデコッフェ(ドイツ)
選手22名(うち投手登録12名、11名は野手兼任) / 監督コーチ3名

5位. テンプライヤーズ・セナート(フランス)
選手19名(うち投手登録6名、2名は野手兼任) / 監督コーチ1名

6位. KNTU・エリザベートグラード(ウクライナ
選手16名(うち投手登録8名) / 監督コーチ2名

以上から「登録選手数が多いチームが上位」かつ「専任投手が多いチームが上位」という相関関係がある程度見て取れるかと思います。

まず「登録選手数が多いチーム」に関してですが、「登録=ロッテルダムまで連れて来る事が出来る」です。連れて来るには移動費もそうですが、大会中の宿泊費、食費、ユニフォーム洗濯等の雑費もかかります。移動費以外で概算1人1泊1万円。最低5日間を20名の選手プラス球団スタッフ数名、となると単純計算100-150万円です。さらに移動費が加わると、球団単体の収益からでは簡単に払える額ではありませんので、スポンサーや選手個人の負担に頼らざるをえません。

実際のところでは、ホームのネプチューンズは自宅が近くにある為、十分な人数を登録でき、かつ試合後も自宅で休養が取れます。大手スポンサーの付いているハイデンハイム・ハイデコッフェは球場横の1泊1万円強の中級以上のクラスのホテルを2人1部屋で利用。また移動もロッテルダムまで車で8時間弱なので、十分な人数を連れて来る事が出来ました。しかし一番遠くから参加のウクライナのKNTU・エリザベートグラードは、大分不利であったように思います。移動はバスで30時間、2日かかりで来蘭していました。また宿泊もロッテルダム郊外のキャンプ場に、4人1部屋の格安コテージで宿泊。この事からもわかるように、予算が限られているため登録人数も絞らざるをえません。大会期間中のコンディションにも明らかに差が出てくるでしょう。

また「専任投手が多いチームが上位」は、5日で5試合を戦う以上、先発投手だけで最低5人必要です。当然中継ぎや抑えも必要ですし、大会前後の自国リーグも考えると10人前後は必要でしょう。人数を間に合わせるために、多くのチームは野手兼任選手を登録していましたが、毎試合を投手のみに集中している選手か、野手も兼任しながらの選手か。能力以上に集中力、体力に差が出てくるのは言うまでもありません。

実際、優勝候補のオランダ、イタリア勢2チームの投手は全て専任投手。その他のチームは、5試合で先発している選手には野手兼任投手も含まれていました。通常の国内リーグはオランダでは木土日で1日1試合ずつ、週3試合。ドイツは金土日で1日1か2試合で、週2試合です。つまりどう考えても通常チームに先発は3–4人です。そこでネプチューンズは普段は下のカテゴリーで投げている選手を多数登録していました。これも地元開催だからこそです。

このような事から見ても、前評判通りの結果になった事は当然であったように思います。そして幾つかのチームは単純な戦力面以外の部分で、最初から優勝を目指せる体制でなかったように思います。

取り組み状況からよく比較されるサッカーのUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)でも、本戦出場32チームの中には優勝の可能性がほぼゼロのチームも存在します。ただUCLは決勝以外ではホーム&アウェー各1試合が行われ、条件的な有利不利なく戦います。また例外を除き、登録25名、ベンチ入り18名も全チームが果たすため、単純な戦力以外の条件は同じです。

最初の話に戻りますが、最低限のスタートラインすら各チームに引かせる事の出来ないのが現状の大会フォーマットであり、またそれしか出来ないのが今のヨーロッパ球界の現実です。
これらの運営規模のチームでヨーロッパを舞台に大会を行うのは無理があり、行ったとしても優勝の可能性は限られた数カ国からの数チームのみ。それぞれの国で野球への取り組み方が決定的に違う以上、それぞれの優勝チームを競わせても、そこにスペクタクルさはありません。つまり野球の人気拡大には繋がりません。

だからこそのEuro League Baseballユーロリーグベースボール)創設なのでしょう。大会主催者もこれまでのインタビューでもそのように答えていますし、私も今大会中に主催者側の数名に話を聞き、幾つかミーティングを行いました。

その取り組みに関してはまた別の機会にしますが、やはり今大会で感じた事はヨーロッパ全体で野球はまだビジネスとして機能しておらず、数各国、数各チームの働きのみがヨーロッパ球界に大きく影響を及ぼしているという事でした。

全7回にわたりヨーロッパカップ2015 ロッテルダムをレポートしてきました。お付き合い頂きありがとうございました。