蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

WPT 2015 オランダ 決勝 vs キューバ

2015-08-03 03:16:16 の記事です。

 

7月26日(日) 決勝 vs キューバ

ワールドポートトーナメント2015、決勝のカードは地元オランダと連覇を狙うキューバ。この大会、過去14回でキューバ勢の優勝はなんと9回。オランダの優勝は2回、そして準優勝6回は全てキューバに負けたもの。観客動員数は上々、主催者にも笑顔が見られるこの大会の最後は、なんとしても地元オランダの優勝でハッピーエンディングを迎えたい所です。

オランダ
予選ラウンド
第1試合 6-5 勝 vs チャイニーズ・タイペイ
第2試合 10-6 勝 vs キュラソー
第3試合 12-7 勝 vs キューバ
第4試合 2-1 勝 vs 日本

決勝ラウンド
第1試合 8-4 勝 vs キューバ
第2試合 19-1 勝 vs キュラソー

キューバ
予選ラウンド
第1試合 4-2 勝 vs チャイニーズ・タイペイ
第2試合 13-5 勝 vs 日本
第3試合 7-12 負 vs オランダ
第4試合 11-7 勝 vs キュラソー

決勝ラウンド
第1試合 4-8 負 vs オランダ
第2試合 4-3 勝 vs チャイニーズ・タイペイ

決勝

キューバ 5-3 オランダ
勝:フランク・モンティート(キューバ) セ:ミゲル・ラヘア(キューバ)負:ロブ・コルデマンス(オランダ)

オランダ先発メンバー
1・セカンド ケフィン・モスキート(コレンドン・キンヘイム)
2・ショート スタイン・ファンデルメールキュラソーネプチューンズ
3・ライト ダニー・ロンブリー(ファエッセン・パイオニアーズ)
4・DH ジアニソン・ブークハウト(キュラソーネプチューンズ
5・サード ドゥウェイン・ケンプ(キュラソーネプチューンズ
6・レフト クリスティアン・ディアス(キュラソーネプチューンズ
7・ファースト ダドリー・レオノラ(コレンドン・キンヘイム)
8・キャッチャー ダシェンコ・リカルド(コレンドン・キンヘイム)
9・センター シャルディマー・ダーンチ(キュラソーネプチューンズ
ピッチャー ロブ・コルデマンス(L&Dアムステルダム・パイレーツ)

オランダ&キューバ国歌

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今大会すでに予選、決勝ラウンドでそれぞれ1回ずつオランダとキューバは対戦しています。ともにオランダの勝利ですが、内容、スコア共に試合の度にキューバが差を詰めて来ています。三度目の対戦でキューバが連覇を決めるのか、オランダが逃げ切るのか注目です。

オランダの先発は大エース、ロブ・コルデマンス。今大会は初戦のチャイニーズ・タイペイ戦で先発をし、8イニング被安打5失点4と勝ちはつかなかったものの試合を作りました。キューバ先発はフランク・モンティート。予選のオランダ戦でも先発、6イニング被安打1失点2で好投しました。にも関わらず、決勝でのオランダとの再戦に備えてか早めに交代、結局後続が打ち込まれ試合には負けました。

1回表、オランダのコルデマンスが早速失点します。初球をキューバ先頭のグリエルに左中間を抜かれ0アウト2塁。続くは今大会ここまで5割の打率を誇る絶好調のサントーヤ。そのサントーヤは2球目をライト前のポテンヒットでグリエルを三塁に進めると、3番グラシアルも初球と同じく早いカウントで打ちに行き6–4–3のダブルプレーの間にキューバが1点先制。失点には繋がらなかったものの、4番バスケスにも初球をレフトオーバーの二塁打を打たれるなど、キューバの積極的なバッティングに押されている様子。変化球が多彩なコルデマンスには追い込まれてからは不利と見て、ファーストストライクから早め早めに仕留めに来ています。コルデマンスの武器はあくまでも制球力。雨が降りしきるこの日のストレートは普段よりも更に遅い80-82マイル(128-131キロ)。スライダーは72マイル(115キロ)。ストレート、スライダー、チェンジアップを低めに集めない事には苦戦が予想されます。

1点を先制されたオランダは3回裏に、四球で出た1番モスキートを進塁打で2塁に送り、打率2割と低迷の4番ブークハウト。その4番のライト前で快足のモスキートが生還。同点に追いつきます。

しかしその直後、キューバが再度突き放しにかかります。4回表、4番のグラシアルから始まる好打順。4本のヒットで3点追加。5回表には1番グリエルの左中間ソロで更に1点。5対1と好投するキューバ先発モンティート相手に、なかなか厳しい点差を付けられます。

今大会のキューバ攻撃陣は特に上位打線が機能していて、1番グリエルが3割中盤、2番サントーヤが5割中盤、3番グラシアル、4番バスケスが共に4割前半と、打ちに打ちまくっています。チーム打率でも3割を超え、上位から下位、どこからでも安打が出る調子の良さを維持しています。

オランダは6回裏に1ヒット1エラーで1点を返すものの、なかなかビッグイニングは作れず。5対2とキューバリードで終盤3イニングを迎えます。

7回表からオランダのマウンドにはルーク・ファンミルが登場。勝ち試合ではクローザーで最終イニングしか出てきませんが、もうこれ以上キューバに点は与えられない試合展開。オランダ代表の中でも圧倒的なピッチングを誇るファンミルに全てを託したとも言えます。

そのファンミル、期待に応え7–9回を散発の2安打、無失点に抑えます。この日最速は97マイル(155キロ)、平均でも94マイル(150キロ)を記録。今シーズン、ほとんど投げる事の無い3イニング目でも球威、コントロールは衰えず。ストレート主体の強気のピッチングで攻め、キューバをシャットアウト。味方の逆転を待ちます。

一方のキューバは6回途中で好投のモンティートを下げます。オランダはなかなかモンティートを攻めきれずにいたので降板で流れが変わるかと思いきや、続いてマウンドに上がったのはホセ・ガルシア。94マイル(150キロ)のストレートと90マイル(144キロ)の高速スライダーを武器に三振を取る、クローザータイプのピッチャー。キューバもファンミル登板のオランダ同様、1点でも取らせないよう早いイニングから締めにきました。

7回裏のオランダの攻撃は先頭のロンブリーが出塁するも、続く4番ブークハウトがダブルプレーに打ち取られ結果は無得点。ブークハウトは4番の役割をなかなか果たせず大ブレーキとなっています。

8回裏、7番レオノラが、8番リカルドが出塁、0アウト1、2塁と好機を広げます。9番ダーンチは見逃三振に倒れるも、1番モスキートのショートへの当たりが相手のエラーを誘います。二塁にいたレオノラが生還、5対3と一点返し2点差。一塁走者のリカルドは三塁、打者のモスキートは二塁へそれぞれ進み、1アウト2、3塁とまだまだチャンスは続きます。しかしチャンスでデュールスマ、ロンブリーが連続で空振り三振。打率1割台のデュールスマに代打を送る駒もなく、せっかくの好機で1点しか取れず。チェンジで9回裏の攻撃に全てを委ねます。

9回裏、最終回の攻撃は4番のブークハウトから始まります。まだ2点差があるので、四球でもいいのでとにかく塁に出たい所。しかしカウント3–1から低めのストレートを詰まらせファーストゴロ。これでブークハウトの打率は.182まで下がりました。それでも5番ケンプがフルカウントからセンター前を放ち、まだ望みを繋ぎますが6番ディアスは2ストライクと簡単に追い込まれてからセカンドゴロでツーアウト。最後の打者になるかもしれない7番レオノラも、2ストライクから不用意に手を出しサードゴロ。5対3でゲームセット。これまで2連勝していた相手に最後の最後で負け、地元オランダの優勝はなりませんでした。

総評

攻撃面では序盤に積極的に振り得点したキューバと、終盤少し慎重になりすぎて振りに行けなかったオランダ。その差が出ました。あまり調子の良く無いコルデマンスの、甘く入ったファーストストライクを打ち得点したキューバ。一方のオランダに積極性はなく、ボールを見ているうちに追い込まれ三振、そのようなパターンが多く見られました。

9イニングを173球で投げたキューバと、97球で投げたオランダ。四球はキューバが5、オランダが0と、キューバの方が制球難で球数が多かったのは事実です。しかし同時に奪三振キューバが8、オランダが3と、オランダの消極的な攻撃が三振を多く生み出していた事も事実です。また前の試合で好投したキューバ先発のモンティート相手に、オランダは何の策もなく臨んだように見えました。

守備面ではそもそもの部分ですが、何でこの試合の先発がコルデマンスだったのか。右腕にしてもヘイステックで良かった気がします。順番ではヘイステックでなくコルデマンスですが、せっかくの大舞台を引退間近のベテランでなく、将来のオランダ投手陣を担う存在であるヘイステックに任せて欲しかったです。

オランダの課題は若手投手陣がなかなか育っていない事。今回の代表は国内組だけで、海外で活躍する若手は含まれておらず、比較的年齢が高くなる事は仕方がありません。それでもそろそろコルデマンス頼みから脱却してもいい時期なのではないでしょうか。

今大会の初戦から決勝までの先発は、ロブ・コルデマンス(40歳・右)、ケフィン・ヘイステック(27歳・右)、オーランド・インテマ(29歳・右)、ケフィン・ケリー(25歳・右)、マイク・ボルセンブローク(28歳・右)、ディエゴマー・マークウェル(34歳・左)、ロブ・コルデマンス(40歳・右)。

シーズンでの登板との兼ね合いもありますが、右腕に関していえばこの登板順そのものが今回の代表の序列だと思います。右のエース、コルデマンスは今年41歳、左のエース、マークウェルは34歳です。その他も20代後半と決して若くはありません。その中でもヘイステックは今後代表を引っ張る存在になると思います。2013年シーズンは国内リーグ最優秀防御率、2014年は最多勝、今季もコルデマンスとチームの二本柱として大車輪の活躍です。欧州代表にも選ばれていて、国際経験も豊富。ここで任せなければいつ任せるのか、と疑問に思いました。

「コルデマンスで優勝を逃したら仕方が無い」と誰もが納得するのかもしれませんが、これまで長年コルデマンスに背負わせ過ぎました。そろそろ右のエースをヘイステックらに任せ、コルデマンスを中継ぎに置くなど配置転換をする頃なのかもしれません。


オランダ代表のスティーフ・ヤンセン監督(中)
観戦に来ていたドイツブンデスリーガのケルン・カージナルス所属、杉尾拓郎投手(左)と廣高竜世選手(右)


日本でもお馴染みルーク・ファンミル投手と