蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オランダ球界ニュース-ヨーロッパプロ野球リーグELB構想など

2015-09-13 10:50:19 の記事です。

 

 先日、欧州の野球クラブ1を決めるヨーロッパカップの決勝が行われた。結果は、オランダのネプチューンズが、イタリアのボローニャを下して優勝。オランダのクラブによるヨーロッパ制覇は2007年のキンハイム以来8年ぶり。

 ボローニャで行われた初戦。たくさんのボローニャファンが詰めかけたアウェー状態で行われた試合の先発はインテマ。4回を4安打4四死球4失点と役割を果たせず、打線も相手の助っ人投手フレミング相手に9三振を喫し惜敗してしまします。  あとがない状況で行われた第2戦の会場はロッテルダム。エースのマークウェルが7回途中2失点で先発の役割を果たす。すると、8回裏にレヒトのヒットでランナーを3塁に進めると、次のブークハウトのセカンドゴロを、イタリア代表の名手バリオが暴投。ついに勝ち越しに成功します。その後は、守護神ルーク・ファンミルがきっちりと抑え、1勝1敗の五分に。先に2勝した方が優勝となる決勝ラウンドは最終戦へ突入します。 最終戦の先発は移籍1年目でしっかりと先発ローテを守ってきたベルギー代表のケニーファンデンブランデン。6回を6奪三振1失点に抑え、イタリアのクラブ相手に通用するところを見せつけます。一方の打撃陣は初回にファンデルミールが2点タイムリーを放ち、幸先よく先制。4回にはケンプ、ディレ、レヒトの3連続タイムリーで一挙5得点。一気にボローニャを突き放しました。リリーフで登板したケリーは2回を4奪三振と圧巻の投球。9回抑えとしてはファンミルではなくファンドリールが登板。実は昨年、守護神だった彼がヨーロッパカップ予選ラウンド最終戦でリリーフ失敗を犯し、ネプチューンズは敗北。そんな彼に対するサプライズ演出の面もあったかもしれません。そうやって背中を押されて登板したファンドリールですが、バリオのタイムリーなどで2点を奪われますが、最後はしっかり三振に打ち取りゲームセット。オランダでは強さを見せつけてきたネプチューンズが悲願のヨーロッパ制覇を達成しました。 最終戦ハイライト動画です。

ネプチューンズ優勝の瞬間

ネプチューンズナインとスタンドのファン

喜ぶネプチューンズナイン

These photos were taken by Michel Sterrenberg.

 エトゥーン監督は就任当初からヨーロッパ制覇の必要性を強調。そのためにチーム作りを行ってきました。長年の課題であった捕手はマイナー帰りでアルバ出身のブークハウトを獲得することで解決。若手育成のためにケンプ弟を、Bクラスのホークスへ1年間移籍させ、経験させてからネプチューンズに再び戻し成長を促しました。積極的な補強も目立ち、今季は日本球界から復帰した元楽天のファンミルを獲得。ベルギー代表のファンデンブランデン、昨季他チームでブレイクしたディアスを獲得。そうした補強してきた選手の活躍も大いに目立ちました。

 国内ホーフトクラッセではシーズン1位だったL&Dアムステルダムパイレーツにプレーオフで3連勝。オランダシリーズ進出を決め、今月12日からコレンドン・キンハイムを相手に戦いが始まります。2連覇中のネプチューンズは3連覇なるのか。 過去のこのカードのオランダシリーズは4度。今回が5度目になります。過去の結果は2勝2敗の五分。直近の2012年にはネプチューンズは4タテをくらって敗北したという苦い思い出があります。くしくもエトゥーン監督の就任は2013年。悪夢のオランダシリーズの記憶にリベンジをする絶好のチャンスだ。就任3年のチーム作りで、どんな戦いを見せるのか見ものだ。

 

 一方のキンハイム。今年は大きくメンバーが様変わりしました。ショートで主将を担っていたクレーマーが引退。補強に動き、ホークスからマイナー帰りのモスキート、これまたマイナー帰りのレオノラ、HCAWからカイザーを獲得し戦力を整えました。昨年にも代表捕手でマイナー帰りのリカルドを獲得しており、アンティル系の選手を多く抱えた球団になりつつあります。また、シーズン途中にはホーフトクラッセ数球団を渡り歩いてきたアメリカ人のオルティスを獲得。打線は厚みをましています。 また、ルーキーチームの若手選手を多数起用。経験を積ませながら、育成にも力を入れています。 先発には代表のスタイフベルヘンが復帰し、若手のヴァシンクも成長。左腕フェルトカンプの不調もあり、元代表で中継ぎ転向を表明していたベルフマンが結局8試合に先発。リリーフ登板も含め、8勝をマークし、今年も勝ち頭になりました。中継ぎエースのヴァルスマは防御率1.30と抜群の安定感。層の厚さではネプチューンズに及ばないかもしれませんが、実力は負けておりません。

 今年最後になったオランダ国内リーグ・ホーフトクラッセ。数少ないテレビ中継もありそうですので、随時twitter(@macchakiromen)でお知らせしていきます。お見逃しなく。

予告先発】第1戦 ネ・マークウェル vs キ・ベルフマン第2戦 ネ・インテマ   vs キ・ヴァシンク

 ではまた、違うニュースに移ります。今年5月、ヨーロッパ野球リーグ(ELB)構想が電撃的に発表され、ヨーロッパプロ野球連盟(EAPB)が発足しました。なんとその発起人は、日本NPB福岡ソフトバンクホークスで活躍しているリック・ファンデンハルク(登録名バンデンハーク)も父親ヴィム・ファンデンハルク氏。 当初はオランダ・イタリア・ドイツ・スペイン・フランスの5カ国から2チームずつ、計10チームによる1リーグ制の構想が発表されました。オランダからの傘下クラブとしてはキュラソーネプチューンズ(ロッテルダム)とファエッセン・パイオニアーズ(ホーフトドルプ)。 ところが先日、続報が報じられ、パイオニアーズに代わってL&Dアムステルダムパイレーツが参入することが報じられました。理由は直接述べられてはいませんが、おそらく実力の面でパイレーツの方が成績を残してきていることが評価されたようです。当初はメインスポンサーのL&Dサポートが今季限りでのスポンサー撤退が囁かれるなど、財政的な厳しさの面でパイレーツが除外されている、との憶測も飛び交いました。しかし、パイレーツのファンティヘーレン会長やデビー会計がEAPB側と粘り強く交渉を続け、パイレーツの参入に持ち込むことができました。 やはりパイレーツ自身にもオランダNO,2との自負があったのでしょう。また、補強をあまりせずに育成中心でチーム作りをしたパイレーツが入ることはオランダ球界にとってもいいことかもしれません。若い国内の選手がプロ選手になれるという希望をもてますから。

 これで、現段階ではオランダからネプチューンズとパイレーツが「プロリーグ」に参入することが決まりました。現行の各国内リーグは基本的に週末に試合を行っているリーグが多いので(ホーフトクラッセは木・土・日)、ELBは平日に2試合を行うようです。ですので、オランダのネプチューンズとパイレーツは、ホーフトクラッセの木土日3試合と、平日にもう2試合。合計で1週間に5試合が消化されていくことになる。国際野球団体の「ベースボールブリッジ」が運営する、Facebookページ「ELBJapna」によると、ELBでは各チーム年間36試合を戦う模様。要するに、1チームを相手に4試合×9=36試合。但、同じ国のリーグに所属するチーム同士の試合は、各国のリーグ戦でのそのカードの4試合の結果を充当すると予想されます。ですので、年間で32試合が今までのスケジュールに追加されるということです。 ホーフトクラッセの1シーズンの試合数が42試合ですので、それに32試合を追加すれば、計74試合。ELBに参加する2チームは年間を通して、より大きい規模で野球をプレーすることが可能になります。ELBはもちろん「プロリーグ」ですので、給与が出ます。現段階ではどれほどの額の給与が支給されるのか、定かではありません。が、セミプロであるホーフトクラッセの選手たちの多くが、副業を持っているのが実情です。こうした選手たちが将来的に副業をしなくても、食べていけるようなリーグにしていくのが理想でしょう。 しかし、現実は甘くありません。ここ近年、正直ホーフトクラッセの観客動員数は現象の一途。テレビで中継される機会も減ってしまっています。そんな中で、ホーフトクラッセの選手たちは、平日に行われるELBの試合に行くことが可能なのか。最も遠いところではチェコまで遠征しなければなりません。こうした、副業との兼ね合いも大きな課題になってきそうです。代表選手などの主力以外は、基本的に副業を持ったり、大学に通っていますから。 私で考える分には、よほど大きいスポンサーをとってくるぐらいしか解決策を思いつきません。ELBを長く存続させていくには、必ず解決しなくてはいけない問題でしょう。ホーフトクラッセのプロ化も10年ほど前に計画されながら、結局セミプロの形で今日まで来ています。その理由もこのあたりにありそう。

 

 

 また、もうひとつの問題もあります。それはホーフトクラッセ他チームの不公平感。実際、パイレーツが参入のために交渉を続けてきたのも、パイオニアーズより成績がいいのになぜ私たちは参加できないのか?という不公平感に端を発しているはず。これと同じように、ホーフトクラッセの他のAクラスのチームも不満を持たないはずがありません。キンハイムはオランダシリーズに出られるというところまで勝ち上がったわけですし、パイオニアーズもBクラスのチームには実力差を見せつけています。ホーフトクラッセでの成績で、入れ替え戦などの機会を設けることも検討していかなければならないでしょう。しかし、入れ替え戦などの結果により、所属の選手がプロとして給料をもらえていたのが、すぐに降格することで再び副業を探す必要性が生じるなど、選手の生活基盤が不安定になることも予想されます。こちらの問題も解決するのは非常に難しそうです。 将来的には、ELBのリーグ自体の規模を大きくしていくことで、より多くのチームが参加できるようになるのが理想。ただ、それまでの道のりは決して短くないはず。それまでは、なんとか各チームの意見を集約してやりくりしていくしかないでしょう。

 さて、このように問題点が少なくないことは事実。が、ヨーロッパにプロリーグができるというのはもちろん喜ばしいことです。ネプチューンズボローニャのヨーロッパカップ決勝を見ても、熱い戦いが見れるのは一目瞭然です。ELBの存在、更には発展によってヨーロッパでの野球の人気と存在がより大きくなっていくことに期待できます。また、個人的にはこのリーグの成功の先にはそれぞれの国内リーグの成功・発展がなければならないと思っています。ELBを入口として各国内リーグへファンを取り込んでいかなければならない。国内リーグを無視した、ヨーロッパリーグ構想であってはならないのです。 それは、ELB側も分かっているようで、当初は平日に試合をすることからも、国内リーグありきのヨーロッパプロリーグという認識を垣間見ることができます。将来、どのような発展を遂げていくかはわからないが、これまで歴史を積み重ねてきた国内リーグの発展こそが、その先に見えてくればいいな、思っている。ELBが国内リーグを維持したまま発展していけるのか、というところに注視していきます。