蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オランダ代表 プレミア12壮行会兼記者会見

2015-11-03 22:00:58 の記事です。

 

オランダ代表が台湾へ出発する直前の水曜日10月28日、オランダで最も新しいホーフドルプにあるファエッセン・パイオニアーズの球場で、国内外メディアへ向けた記者会見が開かれました。
練習を一般公開した後、グラウンドでの取材。その後クラブハウスに移動し記者会見が行われました。

ホーフドルプその1
オランダ最新の野球場 in ホーフドルプ 外観

ホーフドルプその2
オランダ最新の野球場 in ホーフドルプ グラウンド

練習中のAJ
1塁練習中のアンドリュー・ジョーンズ(AJ)、グラブはミズノ

インタビュー中のAJ
FOXヨーロッパのインタビューを受けるAJ

キメてくれたAJ
インタビューが長すぎて少しお疲れ顔のAJ

会見には国内外メディア、そして欧州野球関係者が多数招待。私も招待されたので出席してきました。
代表チームからは、かつて日本でも活躍した代表監督のヘンスリー・ミューレンス、コーチのスティーフ・ヤンセン、今大会でも主軸を担うMLBで10年連続ゴールドグラブのアンドリュー・ジョーンズ、そしてエース左腕のディゴマー・マークウェルが出席しました。

記者会見
記者会見の模様(左から、ディエゴマー・マークウェル、スティーフ・ヤンセンヘンスリー・ミューレンス、アンドリュー・ジョーンズ

オランダ代表は既にキュラソーで2週間のキャンプを実施。チームの雰囲気、選手のコンディションを一気に上げてきました。そして11月9日(月)の地元台湾との開幕戦に向け、一週間前に現地入り予定と準備万端。さらに今大会はここ数年間、主に監督を務めているベルギー人のスティーフ・ヤンセンをコーチへ下げ、サンフランシスコ・ジャイアンツで打撃コーチを務めるオランダのレジェンド、ヘンスリー・ミューレンスが監督に就任。4位となりオランダ旋風を巻き起こした、2013年の第3回WBC以来の指揮を取ることになります。

会見では今大会への意気込みやキュラソーでのキャンプの様子など一般的な内容、そしてやはりミューレンス監督の復帰に関して、日本でプレーするウラディミール・バレンティンに関しての質問が集中しました。

ミューレンス監督が復帰した理由の一つにまず、オランダ王国内の融和があります。この夏のワールドポートトーナメント同様、昨今のオランダ王国内では本国オランダとキュラソーに代表されるカリブ諸国の野球だけでない、経済、文化も含めた結びつきを強調しています。

ミューレンスはオランダ王国のひとつ、カリブ海にあるキュラソーの出身。ミューレンス監督も含めメジャーリーガーを多数輩出しているキュラソーの人気ナンバーワンスポーツは野球。しかし本国オランダではご存知の通りサッカーが一番人気。そこでオランダ王国の人間からも人気のあるカリスマ、ミューレンスに白羽の矢が立ったようです。つまりミューレンスは、野球に関心がない本国オランダからの注目を一気に集めるという大役も担っています。

二つ目の理由は、チームの野手の大半はキュラソー出身マイナーリーガーが占めているということ。
今大会はマイナーリーグが既に終了している為、アメリカからも多数招集されました。ミューレンス監督は今季、サンフランシスコ・ジャイアンツで打撃コーチを務めていた為、アメリカでプレーする選手の情報は事細かく把握しています。
例えば、今回代表に選ばれたカールトン・ダールは、スタッツ(数字)上は守備のエラーが目立っています。しかし、ミューレンス監督はダールがエラーした球場を全てチェック。そして球場のグラウンドコンディションの悪さを指摘、その部分が考慮されて代表に選出されました。

オランダ代表では投手陣は本国オランダ出身、野手陣はキュラソー出身という傾向、暗黙の了解があります。
今回コーチを務めるスティーフ・ヤンセンは、オランダ国境にほど近いアントワープ在住。氏は国内リーグ・ホーフトクラッセでも監督経験があり、シーズン中も頻繁にオランダを訪れ選手の様子をチェックしています。ヨーロッパ在住で、元キャッチャー。投手陣を把握するには適任です。
一方、野手の把握は主にミューレンス監督の役割。氏と同じアメリカ在住、キュラソー出身オランダ人の気持ちはミューレンス監督が一番理解出来ます。ヤンセンコーチは投手陣、ミューレンス監督は野手陣という絶妙なバランスの上にオランダ代表は成り立っています。

また現地メディアからの裏事情としては、金銭的に毎回ミューレンス監督をアメリカから呼べないという事もある様です。サンフランシスコ・ジャイアンツからの年俸を捨てて、代表監督を務める…考えにくい選択です。

KNBSBバナー
王立オランダ野球協会

Team Kingdom of The NL
オランダ王国代表の象徴、全構成国の国旗をあしらったユニフォーム

熱弁をふるうディエゴマー
かつてプレーした台湾メディアの取材を受けるディエゴマー・マークウェル

日本シリーズを戦っていた、東京ヤクルトウラディミール・バレンティン選手に関しては、やはりDHのみでの参加となる模様。今シーズンのほとんどを怪我で欠場したバレンティン。オランダとヤクルトで討議した結果、DHのみの起用になったとのこと。その為、DHにはバレンティンが入り、アンドリュー・ジョーンズは一塁を守る事になる見込みでした。

しかしここに来て急展開を迎えます。10月30日、金曜日の離蘭当日になってアンドリュー・ジョーンズのもと訃報が届きました。故郷キュラソーに住む父ヘンリーが亡くなったとのこと。68歳というあまりにも早い別れに、台湾へ向かうチームとは一度離れ、アンドリューはキュラソーに向かいました。オランダ国内は「アンドリュー・ジョーンズは大会までには台湾に戻ってきて、一緒にプレミア12を戦うだろう。」と見ています。それにはプレミア12が今季無所属だった彼にとって、来季への良い就職活動となるからです。しかしその一方、かつては野球選手だったヘンリーは、アンドリューにとって父親であると同時に一番尊敬する野球選手でもありました。そして、3歳の時にグローブを買い与えてもらい野球を始めるきっかけを作ってくれた人。特に島国の人間は家族愛が深いとも言われるだけに、最終的にどうなるか。オランダ国内もそっと見守りつつも、大会の事を考えると内心はモヤっとしているのが実情です。

既にオランダ代表は台湾で最終調整を行っています。同行スタッフの話では、これまでは特に怪我人もなく順調に来ている模様。

会見でミューレンス監督は「初戦の相手は地元台湾で、試合は大いに盛り上がるだろう。しかし相手がどこであろうが、一戦一戦集中するだけ。」と話していました。アンドリュー・ジョーンズの事はあれど、まずは自分たちの戦いが出来るようにベストを尽くすといったところでしょう。

最後に監督のヘンスリー・ミューレンスから、英語ではありますが日本のファンへメッセージを頂戴しています。


ロッテ・ヤクルトで活躍したミューレンス(登録名:ミューレン)。ヤクルトを1996年に退団後、2000年には韓国でもプレーしているため、アジアには極めて好印象な氏。なんとか台湾での1次ラウンドを突破して、日本にたどり着きたいと豊富で語っていました。

CEB会長
欧州野球機構代表(プレジデント)でご近所のヤン・エッセルマン

クラブハウス
オランダの球場には必ずあるクラブハウス

4位になった第3回WBCと同じく、このプレミア12でも世界を驚かせる存在になるでしょう。