蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

2016ホーフトクラッセ球団紹介

各球団の概要

(1)キュラソーネプチューンズ(Curacao Neptunus、2015年ホーフトクラッセ優勝、クラブヨーロッパクラブ優勝、ロッテルダム)

 球団創設72年、通算優勝数15回を誇るホーフトクラッセの名門。過去10年間で5度の優勝、直近では3連覇。今年はヨーロピアカップ(欧州クラブ選手権)で優勝。過去6年間連続でイタリアリーグ勢に優勝を明け渡していたが、このオランダの名門がその流れを止めた。

ここ10年程は著名な選手を多く輩出するアンティル(キュラソー、アルバなどカリブ海オランダ王国構成国)から多く選手を獲得。戦力強化を図ってきた。2013年からは元マイナーリーガーで元オランダ代表のエトゥーンが監督に就任し、いよいよ磐石だ。所属選手としてはキューバキラーとして有名でWBCでは韓国戦でも勝利投手になったディエゴマー・マークウェル投手。他にはベルギー代表の中心選手で2015年「オランダシリーズ」のMVPを獲得したベンヤミン・ディレ内野手などが在籍する。2016年から発足するヨーロッパプロリーグに参加予定だったが、リーグの運営自体に疑問を呈し今期は参加を見送った。

特に注目したいのは正ショートのステイン・ファンデルメール。長身で細身だが華麗な守備で投手陣を引き立て、シュアな打撃でチャンスメイクする。現在はアメリカの大学で武者修行中。大学リーグがオフの間は帰国してネプチューンズの試合に出場している。大学では3番を担いチームの顔に成長。2015年のヨーロッパ・カップでは決勝で決勝打を放ちMVPになった。

本拠地はオランダ第2の都市で、ヨーロッパ一の港町ロッテルダム。本拠地ファミリースタジアムは収容人数2760人。豊富な資金力の下、「YouTube」や「Instagram」などで動画配信などを充実化させている。

 

(2)L&Dアムステルダム・パイレーツ(L&D Amsterdam Pirates、2011年ホーフトクラッセ優勝、2015年レギュラーシーズン1位、アムステルダム)

 ネプチューンズと共に来年からヨーロッパプロリーグに参加する予定であった強豪(後、参加見送り)。このチームの前身は1959年創立のRAP。RAPの創設者の一人であるルーク・ルーフェンディー(ルークおじさん)は現在でもチームの会長として関わっている。RAPはサッカー部門から野球部門だけが独立し、その後HVAというアムステルダムの野球クラブと合併し、後にアムステルダムパイレーツとなる。2008年からはL&D Supportというコンサルティング会社をスポンサーに迎えL&Dアムステルダムパイレーツとなった。

 チームの特徴としてはあまり補強しないこと。ネプチューンズは補強を重ねてチームを強化してきたが、このチームは育成などを通じ、チームを強化してきた。マイナー帰りのアンティル系の選手は少なく、オランダ育ちでホーフトクラッセのみしか経験のない選手も多い。

注目選手としてはオランダのレジェンド、コルデマンス投手。オランダ球界のレジェンド。WBC3度、オリンピック4度、プレミア12出場と、輝かしい経歴を持つ。球速以上に威力のある真っ直ぐと、伝家の宝刀チェンジアップが特徴。2011年ワールドカップではキューバを8回途中まで2安打1失点で勝利投手になった。チェンジアップは抜く球と落ちる球の2種類がある。

 本拠地は西アムステルダムのオークメールスポーツパーク。収容人数は400人程度だが、室内練習場、バーレストラン、ちょっとしたミュージアムなどを併設している。陽気なDJと共に盛り上がるスタジアムの雰囲気は最高だ。創設者のルークおじさんは80歳を超えた現在でもほぼ毎日観戦に訪れ、ビール片手にチームを鼓舞している。

 

(3)コレンドン・キンハイム(Corendon Kinheim、2012年ホーフトクラッセ優勝、ハーレム)

 オランダの野球の聖地と謳われるハーレムに本拠地を構える歴史ある球団。1935年創立という長い歴史を持つが、最初の70年間の優勝経験はたったの2回であった。20年ほど前まで同じハーレムに存在していたニコルズは通算優勝12回を誇った強豪で、その陰に隠れた存在だった。ただ、ここ10年で3度の優勝を勝ち取り、毎年Aクラス入りする強豪の仲間入りを果たした。現在のスポンサーは航空会社のコレンドン。

 2011年にくしくも夭折した元シアトル・マリナーズのグレッグ・ハルマンは15歳でこのチームのユニフォームに袖を通し、なんとMVPを獲得した。このような偉大な選手を輩出チームでもある。ちなみにキンハイムのクラブハウスでは彼とのお別れ式も執り行われた。

 今期から、現役時代に3度のMVPを受賞したクラウヴェルが監督に就任。昨季、オランダシリーズでネプチューンズに完敗したチームの引き締めを図る。注目選手は、ダーフィット・ベルフマン。長年代表で先発を務めてきた投手で、現在は代表を引退しキンハイムでは投手コーチを兼任する。スローカーブで緩急をつけ、チェンジアップで打ち取る正統派だ。2011ワールドカップでは胴上げ投手になった。

 本拠地は1963年建設のピム・ミュリールスタジアム。2500人を収容するオランダでは大きな球場だ。2年に1度オランダ主催の「ハーレム・ホンクボル・ウィーク」がこの球場で開催され、街をあげて大騒ぎになる。

 

(4)ファエッセン・パイオニアーズ(Vaesen Pioniers、1994年ホーフトクラッセ優勝、ホーフトドルプ)

 ここ5年で2度のオランダシリーズ進出を果たしている中堅クラブ。その割に今まで優勝できたのは球団史上1度だけという不運なチーム。ただ、一貫して代表レベルの選手を有する侮れないチームだ。

 2011年から2015年までロバート・クラファー監督の第2次政権ですべてA クラス入りしたものの遂に優勝を果たすことはできなかった。今期からは2年前に現役を引退したフラネヒンが監督に就任。長年捕手としてチームを支えてきたマーク・デュルスマ、左の大砲マーク・ヤン・モールマンらが引退し、一気に若返り・変革期を迎える。

 注目選手は、若きエースとして期待されるラルス・ハイヤー。2011年から2014年までマリナーズ傘下でプレー。2013年にはシングルAで8勝2敗の好成績を収め、プロスペクトとして期待され、2015年シカゴ・カブスへ移籍。しかし、スプリングキャンプ中に自らのキャリアを見つめなおし、自主退団。現在は母国オランダの地でプレーする。2015年秋には台湾で行われたアジアウィンターリーグのヨーロッパ選抜に参加。エースとして、NPBKBOなどのプロ2軍相手に通用する実力を披露した。昨季までのエース、ヘルナンデスが退団した今期、チームの命運は彼にかかっている。

 本拠地はスキポール空港の近郊に位置するホーフトドルプ。2011年からスポンサーに建設会社のファエッセンがついたのを機に、新スタジアム「スポーツパークパイオニアーズ」を建設。2014年に開場した。当初はMLB公式戦を誘致するとの掛け声のもと、3万人収容を目指したが、現在は収容数千人規模でとどまっている。

 

(5)UVVユトレヒト(UVV Utrecht、2010年2部オーフェルハンフスクラッセ優勝、ホーフトドルプ)

 1948年に創設されるも長い間2部リーグ以下のレベルでくすぶっていたクラブ。2010年に2部オーフェルハンフスクラッセを制すると初の1部ホーフトクラッセ昇格を決めた。昇格してからも一度も最下位にはならず、Bクラスの中で最もAクラスに近い位置に立ち続けている。毎年外国人選手を補強し、何とかチーム改革をしようとする意思が垣間見られる。

 ただ、今期は正念場。昨季まで主軸を担ったデニス・デクイント(ベルギー代表)とギルマー・ランプ(オランダ代表)、更には昨期のブレイクで代表入りした左腕ジム・プルーヘルが移籍した。チームの核が抜けてしまい、一気に若返ったが、この中からチームを支える選手は出てくるのだろうか。

 注目選手は若手左腕ジェレミー・アンジェラ。先発陣の中心はファンゼイル、ファンアンクムら右腕が中心。更にプルーヘルが抜けて左腕の希少価値が増している中、彼の存在は重要になってくる。現在はアリゾナの大学リーグで武者修行中の彼。高校時代はU18オランダ代表に選出されるなど才能は認められていたものの、身体も華奢で球速もまだまだだった。しかし、ここ1年で体格に変化がみられるようになった。胸板は倍ほどに厚くなり、腕肩回りも目に見えて大きくなっている。強いフィジカルを手に入れた彼がどのような投球を披露するかは見ものである。また、野手では母親にフランス人を持つノルベルト・ヨンヘリアス外野手が2016年3月下旬に開催されるWBC予選にフランス代表として出場する。

 本拠地はオランダ第3の都市ユトレヒト。バスケットボールやサッカー場も併設される「スポーツパークデパペルクリップ」。

 

(6)DSS (2014年オーフェルハンフスクラッセ優勝、ハーレム)

 DSSはスポーツクラブとして1919年から既にサッカーチームを有していたが1950年に野球チームを創設。長年2部リーグで戦ってきたが、2014年2部を制すると、ドルトレヒト・ザ・ホークス(現2部)との入れ替え戦を3勝2敗で勝ち越し、球団史上初の1部ホーフトクラッセ昇格を果たした。昨年は昇格後最初のシーズンだったが、大きな補強もせず苦戦が予想されたが、大方の予想をいい意味で裏切り6位という健闘を見せた。

 選手たちもさることながら、なんと監督のスタットは31歳。周りを支えるコーチ陣も投手コーチのリック・へーストマンも選手兼任と若い。スタッフ全員更には地域のファンを巻き込んだチーム運営で上位を目指す。

 注目の選手はファンデルサンデン兄弟。兄のスフェン外野手は去年まで強豪キンハイムに所属し、準レギュラーとして活躍。2014年にはルーキーながらシーズン中盤まで3割をキープし、インパクトを与えた。昨年のチーム打率は.214、本塁打は1。貧打解消に向けた起爆剤になることが期待される。また、弟のトミーは昨年U18代表で欧州選手権に出場したホープ。打撃は力不足ながら、昨期後半にはチームでもショートストップを任せられるようになった。彼が、ショートとして固定できれば安定した内野陣を形成できる。

 本拠地はキンハイムのピム・ミュリールスタジアム横のサブグラウンド。全面人工芝で、申し訳程度のスタンドも設置されている。試合中には出店も登場する。

 

(7)HCAW (1996、1998年ホーフトクラッセ優勝、バッセム)

 1957年創設、ホーフトクラッセの古豪。1999年から2005年までにかけては、毎年の様にネプチューンズと首位争いを繰り広げたが、悉く敗れた。地域には根強いファンが多く、近年は長くBクラスだが、それでも他球団以上の集客数を誇る。オランダ代表で元NPB楽天に所属したルーク・ファンミル等、著名な選手も多数輩出してきた。

 昨季はチームの主軸となる選手が多数移籍し、キュラソーからの補強などで何とか最下位を回避できたが苦しいシーズンになった。しかし、今期は代表レベルの選手を多数獲得。シーズンMVPを獲得したこともあるスラッガー、フィンス・ローイ内野手。代表歴のある元盗塁王ルーリー・エンリケ内野手。2015年秋のアジアウィンターリーグでヨーロッパ選抜の4番をになったケフィン・ヴェイヘルツ内野手が加わった。

 特にヴェイヘルツは2014年HCAWに所属していた選手で今回は出戻り。その際は4番としてチームを牽引し3割をマークした。ウィンターリーグでも本塁打を放ち存在感を示したが、未だフル代表に選ばれたことはない。まずはこのHCAWで暴れて、貴重な蘭製大砲に成長すれば、チームの数年ぶりとなるAクラス入りも見えてくる。

 本拠地はアムステルダム近郊の小都市バッセムの「ホンクボルファリー」。スタンドも数百人分設置されており、選手との距離も近い。駅から近くアクセスも良い。

 

(8)デ・フラスコニンフ・ツインズ (De Glaskoning Twins、2015年オーフェルハンフスクラッセ優勝)

 1969年創設。昨年、2部オーフェルハンフスクラッセを制すると、入れ替え戦ではホーフトクラッセ最下位だったザ・ホークスに対して3連勝。文句なしの内容で、12年ぶりのホーフトクラッセ参加を決めた。オーフェルハンフスクラッセでは安定して上位に位置し、昇格を伺っていたが、ようやく実った形だ。

 監督は32歳と若いローフェルス。昇格を機にAクラスからベテランを補強。先発の核として、数チームを渡り歩いてきたクーイマンを獲得。また、アルバ人の左腕フローレクと、ホープ右腕フローリス・ティマーを獲得。これで先発ローテの3枚が揃い、Bクラスのチームでは珍しく先発投手が充実している。一方の野手では、キンハイムから代表歴もあるアレンズ、ユトレヒトからはベルギー代表の主軸デクイントが加入し、打線の核は揃ったといっても過言ではない。

 さらに注目して欲しいのは、ベリー・ファンドンセラール。2014年までザ・ホークスに在籍していた彼は、ホーフトクラッセで戦っていた際は4番に座っていた強打者。3割をマークしたこともあり、オールスターにも選出されている。彼が5、6番打者として打点を稼ぐことができれば、Bクラスチームの中ではとても贅沢な打線になる。

 本拠地は北ブラバント州の小都市オーステルハウト「デ・ストロボッセ・トーレン」。数百人規模のスタンドが設置されている。ファンは熱狂的で、ビジターにも大勢詰めかける。