蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オランダ野球界紹介2016年

1.概要

国内連盟:王立オランダ野球ソフトボール連盟(Koninklijke Nederlandse Baseball en Softball Bond, KNBSB)

協会創設:1912年

登録球団数:170球団以上

WBSC世界ランキング:5位(2015年)

連盟ウェブサイト:http://www.knbsb.nl/

 

2.野球ホーフトクラッセ(Honkbal Hoofdklasse)

 意外にもオランダ語には独自に野球を意味する言葉がある。それが「ホンクボル(Honkbal)」。「ホーフトクラッセ」はトップリーグを意味し、英語ではダッチ(オランダの)メジャーリーグとも訳される。創立は1922年。日本プロ野球の前身である「日本職業野球連盟」のリーグが1936年に開始されたのを鑑みると、その歴史の古さをお分かりいただけるだろう。

 参加球団は8チーム。南北ホラント州近辺に参加チームが集まっている。レギュラーシーズンは1週間に木・土・日の3試合。全42試合で、その後上位4チームがプレーオフ、下位4チームがプレーダウンを戦う。プレーオフ・ダウンは1カード(3試合)×3チームの計9試合。その後、プレーオフの上位2チームが優勝を決めるための「オランダシリーズ(Holland Series)」を戦いオランダナンバーワンが決まるという流れだ。加えて、プレーダウン最下位のチームは、2部リーグ(オーフェルハンフスクラッセ)の優勝チームと入れ替え戦を行う。

 集客人数としては平均200~300人。以前が500人程度を記録していたことを考えると寂しいものがある。しかし「オランダシリーズ」では1500~2000人を越え、更には国営テレビ局での中継も組まれることからある程度の注目はされているようである。また、オランダの最大手紙「de Volkskrant」では日曜日に1週間の試合結果が載る程度で、時たま特集が組まれるぐらいか。(国際大会の際にはよく特集される)

 

3.注目の球団

(1)キュラソーネプチューンズロッテルダム(Curacao Neptunus Rotterdam、2015年ホーフトクラッセ優勝、クラブヨーロッパクラブ優勝)

 球団創設72年、通算優勝数15回を誇るホーフトクラッセの名門。過去10年間で5度の優勝、直近では3連覇。今年はヨーロピアカップ(欧州クラブ選手権)で優勝。過去6年間連続でイタリアリーグ勢に優勝を明け渡していたが、このオランダの名門がその流れを止めた。ここ10年程は著名な選手を多く輩出するアンティル(キュラソー、アルバなどカリブ海オランダ王国構成国)から多く選手を獲得。戦力強化を図ってきた。2013年からは元マイナーリーガーで元オランダ代表のエトゥーンが監督に就任し、いよいよ磐石だ。所属選手としてはキューバキラーとして有名でWBCでは韓国戦でも勝利投手になったディエゴマー・マークウェル投手。他にはベルギー代表の中心選手で2015年「オランダシリーズ」のMVPを獲得したベンヤミン・ディレ内野手などが在籍する。来年から発足するヨーロッパプロリーグにも参加する。

本拠地はオランダ第2の都市で、ヨーロッパ一の港町ロッテルダム。本拠地ファミリースタジアムは収容人数2760人。

 

(2)L&Dアムステルダム・パイレーツ(L&D Amsterdam Pirates、2011年ホーフトクラッセ優勝、2015年レギュラーシーズン1位)

 ネプチューンズと共に来年からヨーロッパプロリーグに参加する強豪。このチームの前身は1959年創立のRAP。RAPの創設者の一人であるルーク・ルーフェンディーは現在でもチームの会長として関わっている。RAPはサッカー部門から野球部門だけが独立し、その後HVAというアムステルダムの野球クラブと合併し、後にアムステルダムパイレーツとなる。2008年からはL&D Supportというコンサルティング会社をスポンサーに迎えL&Dアムステルダムパイレーツとなった。

 チームの特徴としてはあまり補強しないこと。ネプチューンズは補強を重ねてチームを強化してきたが、このチームは育成などを通じ、チームを強化してきた。マイナー帰りのアンティル系の選手は少なく、オランダ育ちのホーフトクラッセのみしか経験のない選手も多い。所属選手としてはオランダのレジェンド、コルデマンス投手(後述)や、長年代表チームでプレーしキャプテンも務めた守備職人マイケル・デュルスマらがいる。

 本拠地は西アムステルダムのオークメールスポーツパーク。収容人数は400人程度だが、室内練習場、バーレストラン、ちょっとしたミュージアムなどを併設している。陽気なDJと共に盛り上がるスタジアムの雰囲気は最高だ。

 

4.オランダ代表

 WBSC世界ランク5位(2015年)の今や世界の強豪。元々はヨーロッパの2強としてイタリアとヨーロッパの中で覇権を争ってきたが、カリブ海アンティル(キュラソー、アルバ等)の選手が加わるようになって世界の舞台でも頭角を現してきた。欧州野球選手権では21回の優勝と9回の準優勝。五輪もアトランタの初出場からシドニーアテネ、北京と4大会に出場している。以前存在したIBAF野球ワールドカップでは2011年の最後の大会で優勝。また、IBAF主催のもうひとつの国際大会だったインターコンチネンタルカップでは2006年、2010年で連続して準優勝しており、ここ10年で強豪への道を駆け上ってきた。真のナショナルチーム世界一を決めるWBCでは2009年大会で強豪ドミニカ共和国を2度破り、2013年にはついにベスト4まで上り詰めたのである。

 オランダはKNBSB主催で「ハーレムベースボールウィーク」と「ワールドポートトーナメント」という2つの国際大会を毎年交互に開催しており、毎年何らかの形で代表として試合をすることができる。これら2つの大会は、ホーフトクラッセ所属の選手のみでメンバーを構成する。一方、ヨーロッパ選手権ではホーフトクラッセの選手プラス、米マイナー所属の選手が加わる。これらの大会では現在ベルギー出身でオランダ球界で指導者の経験を積んだスティーフ・ヤンセンが監督を務めている。WBCやプレミア12では元ヤクルトで、現在はサンフランシスコ・ジャイアンツで打撃コーチを務めているヘンスリー・ミューレンスが監督を務める。

 投手陣にはオランダ本土選手、野手陣にはアンティル系選手が多い。特徴の違う彼らがそれぞれ「オランダ王国」の名の下に結束して戦う姿が魅力的だ。

 

5.注目選手

(1)ロビー・コルデマンス(Robbie Cordemans)

オランダ球界のレジェンド。WBC3度、オリンピック4度出場と、輝かしい経歴を持つ。球速以上に威力のある真っ直ぐと、伝家の宝刀チェンジアップが特徴。2011ワールドカップではキューバを8回途中まで2安打1失点で勝利投手。三振も取れる。チェンジアップは抜いた球と落ちる球の2種類を投げ分ける。日本ファンには鳥谷に先頭打者ホームランを打たれたことで記憶されてるかもしれないが、それ以降は投球スタイルを多少チェンジ。カーブを有効に使うようになった。それが功を奏してか、今年春の対侍ジャパン戦では先発して2回をきっちりと零封した。ピッチングへの探究心は40歳を超えても大きくなるばかりだ。代表でもチームでも若手へ指導、ノックもこなす。球種はストレート(130前半)、カーブ、チェンジアップ。

13試合6勝2敗 防御率0.84 奪三振79

 

(2)ケフィン・ヘイステック(Kevin Heijstek)

オランダの次世代エース。2013年はホーフトクラッセ最優秀防御率、昨年は最多勝を獲得。今年も9勝でマークウェルと最多勝を分け合った。伝家の宝刀は落差の大きいカーブ。2013WBCでは松田も三振にとった。ストレートは140前後だが、キューバ人で2014MLB新人王のアブレイユやロッテのデスパイネを空振り三振にとったこともある。現在では段々と代表内での位置づけも上がってきており、2014年ユーロではローテで周り準決勝にも登板。コルデマンス、マークウェルら国内のベテラン先発陣に取って代わる存在だ。是非とも日本で見てみたい投手の1人。プレミア12でも先発ローテに割って入りたい。球種はストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップ。

13試合9勝1敗 防御率1.32 奪三振69

 

(3) カリアン・サムス(Kalian Sams)

オランダ行政の中心デンハーグ出身のスラッガー。2011年ワールドカップキューバ戦でのホームラン、2012年ユーロでのサイクルヒットなど印象に残るパフォーマンスをする男だ。シアトルマリナーズやサンディエゴパドレステキサス・レンジャーズ傘下などでプレーしたが、昨年は台湾ポップコーンリーグにてプレーした。オランダシリーズ限定でネプチューンズでもプレーし、優勝に貢献した。2014年欧州野球選手権では5番に座り、決勝のイタリア戦でも2本塁打。今季はカナダ独立リーグで主軸として活躍。チームメイトには元DeNAグリエルの兄などもいた。ツボにはまった時のパンチ力は素晴らしく、もの凄い飛距離を出す。足も速いが、守備では後方の打球に対するアプローチに難がある。今回も主砲として期待したい。

彼も今春の侍ジャパンとのグローバルマッチで来日し、二塁打や犠牲フライでチームに貢献した。

84試合 打率.284 本塁打16 打点68 OPS.1.215