蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

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個人成績も上位2チームが独占?! ~オランダ2021打撃タイトル~

 前回の記事でも書いた通り、例年ホーフトクラッセは上位チームと下位チームの差が大きく、下位チームは大きな戦力補強をしない限り上位4チームに入ることすら難しい。そのため、オランダ代表選手などは、ほとんどが上位4チーム、とりわけネプチューンズアムステルダムに所属している。これは、個人タイトルを見ても一目瞭然だ。

 

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2021個人打撃十傑

 実際に今季、打撃十傑に入る選手(今回は9位が同率3人のため11人)のうち、7人はネプチューンズアムステルダム、2チーム所属の選手だ。資金力に勝る上位2チームが代表選手等を囲い込んでいるのが実情だ。下位チーム所属であっても、タイトルを取るほどの選手が出てくれば、たちまち上位チームに引っ張られる。こういった形で、資金力の差が、ここ20年程の蘭球界は如実に表れている。

 

 その中で、かつてネプチューンズでプレーし、代表選手等から活躍の場を奪われ、下位チームに移籍した選手が、主力としてタイトルを奪還した。ツインズのシャーマン・マーリンだ。

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シャーマン・マーリン内野手(photo:Henk Seppen)

 アルバ出身のマーリンは2014年にホーフトクラッセデビュー。初ホームランは何とオランダシリーズでの一発だった。しかし、その後ブークハウトやデクーバら代表経験もある選手が加入すると出場機会を求めて移籍する。2018年からはツインズに加入し、主軸として成長してきた。29歳の今季、打率は.273ながら7本塁打を放ち、本塁打王に輝いた。2年ぶりにプレーオフに進出したツインズの中心として、若手の多い打線をまとめあげた。代表経験はない選手だが、こうして下位チームで成長し、タイトルホルダーになったのはホーフトクラッセにとっていいこと。もっともっとこうした選手が出てきてほしい。

 

 ただ、今年のMVP候補、ホーフトの顔だったのはやはり代表選手。デンゼル・リチャードソン外野手だ。東京五輪の最終予選にも選出され代表メンバーとしての定着が期待される選手だが、打率、打点、最多安打のタイトルを総なめにした。42試合のフルスケジュールで.438のハイアベレージは驚異的な数字だ。また、盗塁も21個決めており、抜群の身体能力を生かしたプレースタイルが魅力的な選手だ。

シントマールテン出身の28歳で、コロラドロッキーズ傘下でプレー経験があるが、ルーキーリーグ止まりで芽が出なかった。2015年にリリースされた後は、アメリ独立リーグでプレー。2018年にホーフトクラッセDSSに加入し、打率.343、6本塁打と活躍を見せると強豪アムステルダムに移籍した。普段はジムのパーソナルトレーナーとしてアスリートを指導しながらシーズンを過ごしている。オランダ代表の外野陣もオデュベル、サムスが代表引退、バーナディナも37歳。彼が国内でパフォーマンスを維持し、MLB組不在の国際大会では中心となるべき選手だろう。

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デンゼル・リチャードソン外野手(photo:Line Drive Capture)

また、昨年からネプチューンズのショートとして定着したポローニアスは首位ネプチューンズリードオフマンとして不動の活躍だった。安定した守備が特徴的な選手だが、パンチ力も秘めた打撃も安定している。彼もサンフランシスコジャイアンツ傘下でプレーしたが、シングルAが主戦場。リリース後はイタリアボローニャでプレー。昨年からオランダに移籍し、代表にも入るようになった。守備、打撃両面でファンデルミールを上回り、彼を代表引退に追いやったが、ポローニアス自身もすでに30歳。MLB組抜きの代表では彼やダールがショートを守るが、セラッサ、ファンデサンデンら大学世代の内野手も育ってきている。

 セラッサ、ファンデサンデンは、シーズン序盤アメリカの大学でプレーする。ホーフトクラッセに出場できるのはシーズン中盤からだ。両選手とも少ない打数ながらセラッサが.299、ファンデサンデンが.369と高打率をマーク。U23ユーロでは二遊間コンビでオランダを優勝に導いた。今月下旬からはU23ワールドカップが開催される。そこで活躍し、さらなる飛躍、将来的にはポローニアスからフル代表でのレギュラーを奪うところまで期待したい選手たちだ。

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トミー・ファンデサンデン遊撃手(photo:MvW.Fotografie)

 また、HCAWからランクインしている2人は、チームを躍進に導いた2人。彼らが2、3番として機能したおかげでオランダシリーズ進出まであと一歩のところまで来ている。

 特に今シーズンパイオニアーズから加入したフィクター・ドライアーは、昨年コロナによる短縮シーズンながら、打率.500でMVPを獲得した選手だ。もともとはアムステルダムでセカンドを守っていた選手だが、昨年パイオニアーズに移籍し、才能が開花した。今年も打率.326でフルシーズンでは初めて3割を超えた。既に28歳で中堅選手ではあるが、ハーレムホンクボルウィークやワールドポートトーナメントなど、オランダ主催国際大会で代表デビューさせてみたい選手だ。タイプ的には元代表選手のバス・デヨング、日本では内川誠一選手など、広角に打ち分けられる中距離打者だ。彼もまた、リチャードソンと同じく、高齢化が進む代表外野陣に風穴を開けられるよう、ホーフトクラッセで奮闘してほしい。2022シーズンはアムステルダムへの出戻りがあるかもしれない。

 

 下位チームのストークスからは若いジャマニーカ選手が打撃十傑にランクインした。U23にも選ばれており、彼も来年以降の上位チーム移籍が予想される。パンチ力があるはずだが、本塁打は0。デンハーグの本拠地は球場が2面あるため、両翼が100m超でセンターが110mほどしかない。その分フェンスは高いが本塁打が出にくい球場ではないはず。もっと打球が上がるようになると、さらなる成績向上、フル代表選出にもつながるだろう。

 

 今年の打撃十傑を総じてみると、代表常連選手にリチャードソン、ドライヤーなどのニューフェイスが台頭してきた。更には、規定打席に到達していない大学世代の活躍もある。代表の世代交代に向けて少なからず希望の持てるシーズンだったと言えるだろう。

 来年はこうした選手がどこまで成長できるか。更にはアメリカの大学で活躍する選手たちがホーフトクラッセで主力となれるか。それとも、大学を経由してMLBとの契約を勝ち取ることができるだろうか。これまでアメリカの大学を経てドラフトにかかった選手はファンデルミールぐらいだ。どちらにしても、彼らの成長がオランダ代表のネクストステージに不可欠だ。

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ルーク・ルーフェンディーボールパーク(photo:Line Drive Capture)

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本塁打

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打点

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最多安打

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盗塁

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OPS