蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オランダ代表直前分析 ~世代交代の波~

 オランダ代表は1大会ごと着実にWBCという大会の階段を登ってきた。第2回大会ではメジャー軍団のドミニカ共和国を2度撃破し2次ラウンド進出を決め、第3回大会では国際大会の雄キューバにサヨナラ勝利で準決勝進出、第4回大会では主砲バレンティン(元ヤクルト、ソフトバンク)が日本の投手を打ち砕きあと一歩で日本を撃破する寸前だった。

 特にこの2大会において、チームをけん引してきたのはバレンティンを中心とするカリブ海に浮かぶオランダ王国の構成国の一つであるキュラソー出身の選手たちだ。そんな彼らも選手人生の終わりの足音が聞こえてきた。バレンティンは38歳で今大会限りでの引退を表明しており、メジャーリーグで名を馳せたグレゴリウス、シモンズ、スホープらも脂ののった20代を過ぎ、全盛期を超えた感は否めない。今回の大会は、過去2大会を引っ張ってきた主力組が主戦力として戦える最後の大会となるであろう。

ウラディミール・バレンティン(photo:Louie Jay Sienders)

 

 キュラソーは人口10万人の島ながら、野手のメジャーリーガーを多数輩出してきた。そんな彼らの“アイドル”がアンドリュー・ジョーンズだ。イチロー活躍期に少年期を過ごした世代の日本人選手には左打が多い。みながイチローにあこがれ、イチローの真似をし、日本の野球少年にとっての“アイドル”だったイチローのようになろうと、右打の少年が左打に転向するケースも少なくなかった。そんな現象がキュラソーでも起こった。アンドリュー・ジョーンズの影響で、キュラソーの30歳前後の選手には野手が多く、彼らがメジャーへと羽ばたいて行ったのだ。

 

 しかし、そんなAJ世代と言える彼らの下の世代が育っていない。

 前回大会後に新たにメジャーに昇格した選手はアトランタ・ブレーブスで2021年に30本塁打を放ったオジー・アルビースのみ。彼は昨シーズンのほとんどを怪我により欠場を余儀なくされたこともあり、オランダ代表は辞退している。その他にはテキサス・レンジャーズで2020年に7試合に出場したアポステルぐらいだ。

 こうした現状により、前回大会とほぼ同じメンツで戦わざるを得ない。外野の層が薄いところはキュラソーアメリカ人メジャーリーガーのパラシオス兄弟を招集することで穴埋めしている。オランダ代表の野手陣の様相は、世代交代に失敗する直前、風前の灯と言っても過言ではない。ろうそくの灯が消えきる前に、なんとしても照らさなければならないものがあるはずだ。

 

 一方の投手陣はどうだろうか。前回大会でオランダ躍進の大きな要因となったのが盤石のリリーバーだった。守護神のファンミル、セットアッパーのスタイフベルヘンをはじめ、デブロック、マーティスらが日本やプエルトリコら猛者たちをかわして勝利へつないだ。しかし、ファンミル、スタイフベルヘンが代表を去り、先発陣も世代交代の中でデブロック、マーティスは先発に回らざるを得ない。そんな中リリーバーの穴埋めをするのはオランダ系アメリカ人でアストロズ傘下所属のウェスト。さらにはアルバ出身のアントワネ・ケリーは160キロに迫る速球を持ち合わせている。ほかにもシンシナティ・レッズ傘下のフランセンも代表入り。アメリカマイナーで経験する選手たちが前回のリリーバーたちのような活躍を見せられるだろうか。

 

 しかし、リリーフ陣だけに限らず、先発投手陣を含めた投手陣全体が世代交代真っただ中ということを忘れてはならない。

 前回大会までは代表入りしていたコルデマンスやマークウェルといった代表常連の大ベテランたちが引退。アトランタ五輪から経験してきた彼らがいなくなったことは非常に大きい。さらには、世界のトップリーグで活躍したバンデンハーク、ジャージェンスの2枚看板の引退はチーム力に直結する問題である。

 今回の大会フォーマットでは1次リーグで4試合を行うため4枚の先発投手が必要となる。しかし、世代交代真っただ中の今回のチームでは、そこに4枚の先発投手を当てはめるのにも苦労するほどだ。開幕戦の先発には右肘手術明け初の公式戦登板となるトム・デブロックが決まった。デブロックやマイナーでプレーする有望株のエスタニスタらが期待以上の活躍を見せてくれるのは上位進出の必須条件となる。

ラース・ハイヤー(photo:Louie Jay Sienders)

 

 この、投手陣の状況を考えると、オランダが勝ちやすい一番のパターンは打線で打ち勝つパターンだ。このチームにはそれができるだけのタレントが揃っている。パドレスと大型契約したボーハーツや、シーズン60本塁打バレンティンらと聞けば想像できるだろう。しかし、本戦前の強化試合の結果は1勝5敗と大きく負け越し、打線も湿りがち。チームリーダーのボーハーツ自らが「我々はもっと状態をあげなくてはいけない」と漏らすほどだ。最後の2試合ではバレンティンとバーナディナにホームランが出たものの、肝心のメジャー組に快音は聞かれていない。今回のチーム事情からある程度の打線の爆発は勝ち抜けへの必須条件。「水曜日には必ず合わせる」といったチームリーダーの言葉を信じるしかない。

 

 風前の灯火となったオランダ代表はあっけなく台湾ラウンドで消えてしまうのか、それとも新たなろうそくに火を灯す救世主が現れるのか。打撃陣が本来の姿を取り戻し、投手陣に我々の予想を覆すパフォーマンスを見せてくれる存在が現れれば、必ず素晴らしい景色を照らせるはずだ。惜しくも昨季限りでの引退を決断したコルデマンスは2013年の日本戦前に、「ここで日本に勝ったらオランダに野球フィーバーを起こせる」といった。その言葉が忘れられない。そんな景色を照らしてくれるのは、果たして今回の大会なのだろうか。

 

【強化試合結果】

1勝5敗

オランダ 1-4 ハンファ

オランダ 4-15 ハンファ

オランダ 7-5 LGツインズ

オランダ 2-8 ネクセンヒーローズ

オランダ 1-2 富邦ガーディアンズ

オランダ 2-4 TSGホークス

 

【大会日程・予想先発投手】

WBC2023大会日程(オランダ)

1次ラウンド @台中(台湾)

  8日キューバ戦 デブロック

  9日パナマ戦  エスタニスタ

 11日台湾戦   マーティス

 12日イタリア戦 ハイヤー

準々決勝 東京(日本)

 15・16日 デブロック

準決勝 マイアミ(アメリカ)

 19・20日

決勝  マイアミ(アメリカ)

 21日