蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オランダに”プロ”野球リーグ誕生!? ~エクスパンション・プロ化~

 「これからはメジャーでも、セリーグでもなく、パリーグです。」そう言い放ったスター、新庄剛志が引退以来14年ぶりに球界に復帰した。新庄効果は絶大で、彼の一挙手一投足に野球ファンのみならず、多くの人が心を躍らせ、ちょっとしたことでも話題となっている。一人のスターの存在だけで、こんなにも野球というスポーツに光が当てられるのか、と驚くのと共に、彼のまじめなインタビューの受け答えや裏話を聞くと、同郷人として誇らしげな気持ちになる。私の母は、「なぜホークスが監督にしなかったのか」と憤慨していたが、そりゃホークスは無理ですばい。

 

 さて、個人的には10数年も前から「これからはメジャーでも、日本プロ野球でもなく、オランダホーフトクッラセですばい。」と思ってきたが、それを成し遂げられるようなスター選手は未だ登場していないし、オランダ国内ですら野球リーグの人気は上がっていない。

 2021年シーズンもアムステルダムパイレーツの優勝で幕を閉じ、入れ替え戦で2部に降格になるチームも決まった。さあ、ここから移籍市場が動き出すぞ、と思った矢先。ビッグニュースが飛び込んできた。なんと、入れ替え戦に敗北したシリコン・ストークスが降格せずに、昇格するRCHペンギンズを加えて9球団で2022年シーズンを実施するというのだ。

f:id:honkbaljp:20211117182043j:plain

リーグ残留が決まったシリコン・ストーク

 これはいわばエクスパンションだ。しかし、ただのエクスパンションではない。クローズドリーグ(米式スポーツリーグ)化とプロ化を伴うエクスパンションだ。

 

 オランダシリーズ真っただ中の10月5日、各球団のオーナーが招集され、ホーフトクラッセの経営に関するオーナー会議が開催された。ここで議論されたのが2022年からのクローズドリーグ化とリーグのプロ化だ。

 来年からはメジャーリーグや日本プロ野球NPB)と同様に、チームの順位に関わらず、2部リーグとのチームの入れ替えは廃止。プロ野球チームとして最低限度の施設・財源を有する球団のみがホーフトクラッセに参入できる、と決めた。

 

 この決議がなされた後、10月16日の入れ替え戦にてストークスが敗北。もちろん10月5日のオーナー会議にはストークス球団も参加していたわけだから、来年からの新生ホーフトクラッセに参加する気は満々。降格なんか知ったことか、となったわけだ。王立オランダ野球ソフトボール協会(KNBSB)は頭を悩ませたことだろう。こうした八方ふさがり状況で、苦肉の策として9球団での2022年シーズン実施、という折衷案が持ち出されたのではないかと推察する。いわば、意図しない形でのエクスパンションである。

 果たして、こんな行き当たりばったりで本当にプロ化が進められるのだろうか。9球団で実施するといってもチーム数が奇数になるため、毎カード1チームは試合ができなくなってしまう。現在のレギュレーションでは、毎週1カード3試合が行われており、この方式を継続するのであれば1週間試合がないチームが生じてしまう。詳しい日程は発表されていないが、どのように工夫して日程を決めるのだろうか。

 

 更には、プロ化に向けた一番の課題が財政面。協会幹部は、“トップスポーツ”としてオランダ五輪委員会から更なる支援を受けられると説明する。しかし、本来五輪委員会から支援金が受けられるのは、オランダ代表選抜選手等の強化選手のみ。リーグやクラブに支援金が支給されるわけではない。ましてや、野球はパリ五輪の正式種目から除外されている。野球に対して予算を拡大してもらえる積極的な要因は何一つない。各球団の経営努力により、スポンサーからの更なる支援を引き出すか、より良いスポンサーとの契約をするしか、球団経営に対する財政的な拡大策はあり得ない。

 ホーフトクラッセでは突然メインスポンサーが撤退するのも珍しくない。オランダの野球の聖地ハーレムを本拠地としたキンハイム。このチームにはコレンドンというトルコ系格安航空会社がスポンサーとしてついていたが、2016年に突如として撤退。主力選手がほぼ全員流出し、ホーフトクラッセから球団自体も離脱した。現在は同じハーレムに本拠地を置くDSSと連合でリーグに復帰しているが、当時のような強いチームには戻れていない。

f:id:honkbaljp:20211117182125j:plain

ハーレム連合チームとして参加しているキンハイムとDSS

 こうした事態を招かないためには、ファンを獲得し、入場料等収益性を挙げなければならない。成功例はL&Dサポートというコンサルティング会社がスポンサーを務めるアムステルダムパイレーツだ。どのチームも毎試合100人も観客動員できれば御の字だが、アムステルダムは平均的に300~500人を動員。オランダシリーズでは1000人超を動員している。結果としてL&Dサポートは2009年からスポンサーを務めて以来、来季で13年目に突入する。もちろん元々根付いている地域のファンに支えられているとはいえ、野球博物館やレストラン、室内練習場を整備するなど球団の経営努力も一役買っているはずだ。

f:id:honkbaljp:20211117182201j:plain

大勢の観客が入るアムステルダムの試合(photo:Henk Seppen)

f:id:honkbaljp:20211117182241j:plain

パイレーツの創始者の名を冠するルーク・ルーフェンディーボールパーク(photo:Henk Seppen)

 アムステルダムのように成功を収める球団はごく一部。この現状を協会幹部はどう分析しているのだろうか。協会幹部はコロナ下での改革の成果を力説する。その一つがホンクボルTVの成功。コロナ禍のロックダウンに伴い、無観客での試合を余儀なくされたホーフトクラッセ。協会はこの事態に素早く対応し、ホンクボルTVという、毎試合ライブ中継を無料視聴できるコンテンツを整備した。私もこれには大いに期待したが、蓋を開けてみるとひっくり返った。バックネット裏に設置した固定カメラの映像を垂れ流すだけという何ともロークオリティな代物だったのだ。外野にボールが飛ぶと画面上から見失ってしまい、普段野球を見ているファンからすると見るに堪えないのだから、野球になじみがない層からすると論外。こんなもので新たなファンの獲得などできるはずもない。

f:id:honkbaljp:20211117182358p:plain

ホンクボルTV

f:id:honkbaljp:20211117182433p:plain

ホンクボルTV中継画面。普段の野球中継に慣れているとなかなかの見づらさ。

 ただ、スピード感は評価したい。イタリアやドイツなど球団ごとにライブ中継を実施しているようなところはあるが、リーグ全体でこうしたライブ中継コンテンツを作ったのはホーフトクラッセが初めてだろう。

 リーグ優勝決定戦であるオランダシリーズは、国内でもある程度の注目度があるため、オランダ公共放送(NOS)で生中継される。その映像と比べると、ホンクボルTVは見れたもんじゃない。今後は、ホンクボルTVの“成功”を、少しでも大成功に近づけるために、より良いものにしていってほしい。

 

 おおむね協会のリーグ発展構想自体には賛同する。キュラソーアルバを含めた外国人選手の受け入れルールの改善や、上位チームに有望選手が固まり出場機会が限られているため、レンタル移籍なども含めた移籍制度の改正にも賛成だ。各チームの戦力均衡を図り、リーグ全体のレベルを上げていく方針に間違いはない。

 しかし、現実的視点が抜け落ちていることに多くのファンより懸念の声が出ている。過去に現実的視点が抜け落ちていた結果、大失敗した例がある。メジャーリーグの公式戦誘致を試みたホーフトドルプ新球場の建設がそれ。建設したものの、収容人数は常設で1万人。仮設観客席でプラス2万人としていたが、途中で財源的問題に直面し頓挫。しまいにはイギリスロンドンにヨーロッパ初のメジャーリーグ公式戦開催の座も奪われた。

 

 今度はホーフトクラッセのプロ化・エクスパンションという目標を頓挫させないためにも、現実的視点を持ち、少しずつ少しずつより良いリーグにしていって欲しい。何はともあれ2022年の新生ホーフトクラッセが今から楽しみだ。

オランダ国営テレビ生中継で蘭国民が注目!?~2021オランダシリーズ~

 日本プロ野球NPB)では、両リーグとも昨年再開のチームが優勝し、いよいよクライマックスシリーズが始まろうとしている。野球の本場アメリカでは五輪での休止期間がなかったため、一足先にポストシーズンまで終了。アトランタブレーブスワールドシリーズを制した。

 

 ヨーロッパのオランダでは、年間42試合という試合数が少ないこともあり、8月末にペナントレースが終了。9月は3つの国際大会があったため、その合間を縫って上位4チーム、下位4チームに分かれてのプレーオフ、プレーダウンが実施された。

 上位4チームに入ったのは2強のアムステルダムロッテルダム。そして、若手有望株の多いHCAWとツインズ。プレーオフは1位と4位、2位と3位が対戦。その勝者同士がオランダシリーズに進むという流れだ。

 

f:id:honkbaljp:20211103201147p:plain

プレーオフA順位表

f:id:honkbaljp:20211103201209p:plain

プレーオフB順位表


 プレーオフAは、シーズン1位のネプチューンズが地力の差を見せつけ、ツインズをスイープで退けた。プレーオフBは3位のHCAWが大健闘。先に2勝を挙げ、オランダシリーズ進出に王手をかけたが、土壇場で2連敗を喫し下剋上でのオランダシリーズ進出を逃してしまった。しかし、強豪アムステルダムに対して打ち勝つ試合もあったり、来年につながる試合となったのではないだろうか。例年、オフには選手の流出が多いHCAW。来年の優勝を狙うのであれば、今季の主力を残留させることができるかが、非常に重要なポイントだろう。

f:id:honkbaljp:20211103201821j:plain

オランダシリーズ2021

 さて、今季のオランダシリーズもおなじみの顔ぶれでの対決となった。アムステルダムロッテルダムの対戦は2016年から6年連続となった。その間の対戦成績はネプチューンズの3勝、アムステルダムの1勝だ。昨年2020年は、オランダシリーズ開催期間中に蘭政府による緊急事態宣言が発令され、惜しくもシリーズ打ち切りとなり異例の優勝チームなしとなった。シーズン1位のネプチューンズのほうが選手層の厚みがあることは明白だが、アムステルダムもシーズン終盤にかけてオランダ代表でもあるマーティスやシャーロン・スホープが合流した。大方の予想としても第6、7戦までもつれるだろうとの見立てだったが、その通りの結果となった。

 最終第7戦までもつれた結果、アムステルダムが逆転での優勝。第1戦から簡単に振り返ってみたい。

f:id:honkbaljp:20211103201642p:plain

オランダシリーズ第1戦

f:id:honkbaljp:20211103201707p:plain

オランダシリーズ第2戦


 ネプチューンズは1戦目2戦目と連続でマークウェルを先発投手として起用した。2戦目までの間に中5日空いていたことからこの起用になったが、結果として裏目に出た。アムステルダムは1戦目にマーティス、2戦目にスルバランを先発起用。両投手とも、現役のオランダ代表投手ということもあり、マーティスが完封、スルバランが1失点完投という最高の結果をもたらした。元代表左腕の大ベテランマークウェルも、両試合とも最低限の失点で防いだが、アムステルダムの勝負所での得点に泣いた。特に2戦目はランペの1発が大きかった。

 

f:id:honkbaljp:20211103201910p:plain

オランダシリーズ第3戦

f:id:honkbaljp:20211103201943j:plain

ケフィン・ケリー投手(photo:Henk Seppen)

 3戦目、ネプチューンズは一か八かの大勝負に出た。なんと代表でもリリーバーを務めるケリーを先発投手として起用したのだ。これは、オランダシリーズを何度も経験しているネプチューンズの得意技で、過去にもリリーフエースファンドリールを先発起用し、彼のシリーズMVPとなる活躍で優勝を手にしたことがあった。この経験を思い起こしたのかわからないが、なんとこの試合をケリーの完封劇でものにしたのだ。得点は初回に相手先発マーティスのワイルドピッチと、レオノラの内野ゴロの間に手にした2点だけ。力強いまっすぐを主体に9奪三振の圧巻のピッチングだった。普段見られないケリーの長いイニングの投球。こうしたレアケースを見られるのもオランダシリーズの魅力だ。

 

f:id:honkbaljp:20211103202032p:plain

オランダシリーズ第4戦

f:id:honkbaljp:20211103202102j:plain

カイ・ティメルマンス投手(photo:Henk Seppen)

 そして第4戦。先発はお互いに若手投手。お互いにU23オランダ代表メンバー。ネプチューンズがデフロート、アムステルダムがデフラーウ。しかし、ネプチューンズ先発のデフロートは初回に2失点。その後もコントロールが安定せずドタバタしていた。ここで思い切ってティメルマンスにスイッチ。彼も本来先発投手で、代表にも選出される選手だ。3回から9回途中までを無失点で投げ抜き、打線も大爆発。これで勝敗を2勝2敗の五分に戻した。シーズンでは見られない思い切った投手起用でネプチューンズに流れが大きく傾いた。

 

f:id:honkbaljp:20211103202208p:plain

オランダシリーズ第5戦

 第5戦はマークウェルが3度目の先発。10安打を浴び4失点を喫するも、打線がスルバランから小刻みに得点し勝利。これで王手をかけた。流れは完全にネプチューンズ。第3戦で先発したケリーは本来の守護神として登場しセーブを挙げるなど、大車輪の活躍だ。

 

f:id:honkbaljp:20211103202229p:plain

オランダシリーズ第6戦

f:id:honkbaljp:20211103202254j:plain

カリアン・サムス外野手(photo:Henk Seppen)

 勝負の第6戦は場所をアムステルダムに移した。この試合はオランダ公共放送の生中継もあり観客も1000~1500人近く動員しただろうか。終盤にかけて盛り上がりも出てきた。ネプチューンズは先発投手に1週間前にロングリリーフで好投したティメルマンスを持ってきた。アムステルダムは同じくデフラーウ。まだまだ安定して140キロ以上の速球を投げられないデフラーウ。ブークハウトに特大のツーランを浴び先生を許してしまう。しかし、アムステルダムの主砲カリアン・サムスが反撃のソロホームランを放つと、5回には打線が爆発。ネプチューンズのセンターダーンティのエラーもあり一挙6点追加で逆転。アムステルダムは守護神のフロートが6回途中からロングリリーフしそのまま逃げ切った。

 

f:id:honkbaljp:20211103202408p:plain

オランダシリーズ第7戦

f:id:honkbaljp:20211103202429j:plain

シャイロン・マーティス投手(photo:Henk Seppen)

 両チーム泣いても笑っても最後となった7戦目。ネプチューンズはまたしても守護神ケリーを先発起用。アムステルダムは身内の結婚式で一時キュラソーに帰島していたマーティスがとんぼ返りの大移動で先発登板。両者とも好投していたが5回表にアムステルダム犠牲フライで先制すると、続くチャンスで主砲サムスが決勝スリーランホームラン。代表でも主砲としてオランダを引っ張って来たサムスが勝負所での格の違いを見せつけた。

 ネプチューンズも今年で引退する元代表選手のファンドリールが8,9回を完璧にリリーフするなど粘りを見せたが一歩及ばず。マーティスがまたしても9回を投げ切り優勝投手に。キュラソーからとんぼ返りしたとは思えないパフォーマンスを見せた。

 この両チームのオランダシリーズは毎度6,7戦目までもつれ、見ているほうはほんとにハラハラした戦いになることが多いが、今シーズンも期待を裏切らない戦いを見せてくれた。オランダ代表を引退したサムス、マークウェル等が元気な姿を見せ、オランダ公共放送での生中継も7試合中3試合。アムステルダムでの試合は観客動員も1000人を超えた。少しずつオランダホーフトクラッセも魅力あるリーグとしてオランダ人に浸透していくのを願うばかりです。

f:id:honkbaljp:20211103202650j:plain

優勝を喜ぶアムステルダムナイン(photo:Henk Seppen)

 そんな中、この裏で行われた2部リーグとの入れ替え戦デンハーグに本拠地を置くストークスが敗北。本来なら2部へ降格なのだが、このまま残留し、ストークスを撃破したRCHペンギンズを1部に加え、来季は9球団でホーフトクラッセが行われるというビッグニュースが飛び込んできた。試合数は増えるのか?1チームは毎週余って試合がないチームが出てくるのか?など、いろいろな疑問が出てくるが、それはまた次回の記事で語っていきたい。

 

MLB契約へのアピールなるか?~U23ワールドカップオランダ代表~

 運命の1日。プロ野球を目指すべての野球選手にとってそう呼ばれるドラフト会議。今年は何球団も競合する目玉と呼ばれる注目選手はいなかったが、それでもほとんどの野球人が固唾をのんで指名の瞬間を見守った。各選手の背景にはそれぞれのドラマがあり、それぞれの運命の1日はまさにドラマチックだ。

 

 さて、海の向こうのオランダ。ここの野球選手にとって運命の1日と呼べるような日は存在しない。オランダが国内のプロ野球と呼べるホーフトクラッセ(実態としてはセミプロ)に入るのにドラフト制度はなく、欧州のサッカークラブと同じように、自由にどこの球団とでも契約ができる。一般的にはユース時代から所属してきた球団の1軍にそのまま昇格する形でプロデビューを果たすのが通常ルートだ。

 ただ、有望なオランダ人選手のほとんどが“プロ”としてプレーするのを夢見て、アメリカを目指す。最も有望な選手たちは16~18歳でMLB球団とマイナー契約をするが、それに漏れた選手はアメリカの大学でプレーしMLBのドラフトを目指す。しかし、高校からMLB球団と契約するよりはるかに難易度が高く、これまで大学経由でドラフトにかかった選手は近年ではスタイン・ファンデルミール(ネプチューンズ)のみ。現状、高校時代に圧倒的なポテンシャルを示すしかMLB球団と契約する術はないようなものだ。

 

 そんな雲をつかむような限られた可能性に挑戦している選手たちが集結し、世界の大学世代の野球選手権とでもいうべきU23ワールドカップが開催された。メンバーの中心はオランダ国内リーグホーフトクラッセでプレーする選手たち。その半数近くはアメリカの大学でもプレーし、大学のシーズンオフにオランダに帰国しホーフトクラッセでプレーしている。

 オランダ代表は9月上旬に開催されたU23ユーロで優勝し、そのメンバーにMLB傘下マイナーでプレーする選手を加えて大会に臨んだ。結果は10位。欧州ナンバーワンのチームとして臨んだ世界の舞台だったが、競合と渡り合うためにはまだまだ力不足が露呈した形だ。

f:id:honkbaljp:20211018190559p:plain

オランダ代表試合結果

 この大会で露呈したオランダの弱点は守備力だった。フル代表では、鉄壁の内野陣を活かすため、投手はテンポよく投げ込み、打たせて取るスタイルだが、この世代ではそのスタイルに当てはめることが難しかった。

 象徴的な試合が第2試合目の韓国戦だ。オランダが7-2でリードしていた最終7回裏、ノーアウトでヒットを許した後、ゲッツーコースのショートゴロが飛んだ。それを遊撃手のセラッサがファンブル。2アウトランナーなしとなる場面でピンチが広がり、その後一気に同点に追いつかれる発端を作ってしまった。更には、延長でタイブレークとなった8回1アウト2,3塁からファーストゴロが転がると一塁手のジャマニーカがホームへ暴投、これがサヨナラの得点となり敗北した。この2戦目に仮に勝利していれば、スーパーラウンド進出の可能性も広がっただけに、韓国戦での敗戦は非常に痛かった。何より、この2つのエラーで負けたのは今回の代表の象徴的なプレーと言ってよかった。

 

 守乱はこれだけではない。コロンビア戦で初出場したマルティー捕手はパスボール等を繰り返し試合後半は集中力が完全に切れていた。また、内野の要であるショートではセラッサとファンデサンデンが大会の半分、それぞれ4試合ずつ出場したが、両者ともいいプレーがありつつもエラーも複数見られた。また、外野手のリップはチェコ戦でライト前に飛んだヒットを後ろに逸らし、走者一掃の三塁打にしてしまった。と、守備の乱れを言い出すと枚挙にいとまがないが、この守備力では上位を狙うのが難しかったのもまた事実だろう。

 

 その中でもディフェンスで存在感を示したのが二塁手のケンプと捕手のヤンセン。ケンプは安定したフィールディングでショートの二人をカバーしたし、ヤンセンは献身的なブロッキングとキャッチングで投手陣を引っ張った。

 ケンプはフル代表常連のドゥエイン・ケンプの弟で、まだ19歳。国内ツインズでプレーしている。打撃のほうもスピードを活かした攻撃ができる選手であるので、これからの成長が楽しみな選手の一人だ。

f:id:honkbaljp:20211018205222j:plain

タイリック・ケンプ内野手(photo:Alfred Cop)

 ヤンセンアメリカの大学でもプレーしており、国内ではツインズに所属。シーズンオフには日本でプレーするバンデンハークの練習相手を務めている。大学リーグでも守備部門の優秀賞を受賞するなど守備型キャッチャーとして活躍しており、捕手に人材が不足しているオランダフル代表にも入ってこられるだけの守備力を兼ね備えている。WBCではメジャー経験もあるトロンプがレギュラーキャッチャーを担うだろうが、彼不在だとベテランのリカルド、ロープストックらが現状の捕手陣だ。打撃面の能力を向上させれば、オランダの甲斐拓也として、代表に割って入ることができるだろう。

f:id:honkbaljp:20211018205421j:plain

デイフ・ヤンセン捕手(photo:MvW.Fotografie)

 

 打線で一人気を吐いたのはセラッサ。全試合3番に入り、打率.346と唯一3割を超えた。U18でも代表経験があり、U23代表はこれが2度目の選出。アメリカの大学でもプレーしているが、今季はホーフトクラッセでも本塁打3本放っている。これまで通算僅か1本だったのを考えると、倍増以上。長所の打撃面を向上させ、ホーフトクラッセで圧倒的な数字を出せば、ポストドゥエイン・ケンプとして、フル代表に選出されるのもそう遠くない未来に実現できるだろう。

f:id:honkbaljp:20211018190119j:plain

デラーノ・セラッサ内野手(photo:Henk Seppen)

 また、同じショートとして4試合、DHとして3試合に出場したファンデサンデンはエラーもした一方で、1イニング3つのショートゴロを軽快にさばいたり、非凡な守備力も垣間見せた。この大会では打率.158と、数字は残せなかったが、いい当たりが正面を突いたり、好守にはばまれたりと、不運な面もあった。ホーフトクラッセではここ4年で3回3割以上の打率をマークしている。アメリカの大学で守備の安定性に磨きをかければ、守備職人として代表を支えたマイケル・デュルスマのような存在になり得る。

f:id:honkbaljp:20211018190243g:plain

トミー・ファンデサンデン遊撃手、タイリック・ケンプ二塁手

f:id:honkbaljp:20211018205650j:plain

トミー・ファンデサンデン内野手(photo:MvW.Fotografie)

 長打力を見せたのはマイナー組だ。前回のU23でも活躍したマルティーナは、今年のヨーロッパ選手権でフル代表デビュー。今大会では打線の中心として期待されたが、前半戦はヒットが出ず苦しんだ。終盤のチェコ戦で待望のホームランが出たが、強豪ひしめくオープニングラウンドで打棒が鳴りを潜めたのがチームとしては非常に痛かった。

 意外なスピードを見せたのはミシェル。ボテボテの内野ゴロでも、右打席から内野安打できるだけのスピードの持ち主だった。ドイツ戦ではホームランも放ち、最年長24歳として意外な活躍を見せた選手だった。

 

 ただ、打線全体としてみると、リードオフマンでフル代表にも選出されたリップがあまり出塁できなかったり、主軸として期待されたジャマニーカが大会を通じてノーヒットに終わったり、想定していたような戦いができなかった。U23ヨーロッパ選手権で成功した打線の並びが機能せず、主砲のマルティーナの不調。これがオープニングラウンド敗退の主要因だったと言ってもいいだろう。

 

 一方の投手陣。先発で白星がついた投手は一人もいない。韓国戦に先発したクラハトが4回を2失点に抑え降板したが、最終回に追いつかれ白星がつかなかった。先発陣に総じて言えることは、球速とスタミナ不足だ。先発陣で140キロ以上を計測したのはマドゥロ、ポステルマンス、クラハトら3人だが、平均して140キロを超えた選手は一人もいなかった。特にクラハトは初回に141キロを計測して以降、1球も140キロ超はなかった。先発登板したクラハト、プリンス、デフラーウは今季ホーフトクラッセで先発登板をしている投手だけに、期待外れな内容に終わった。

 その中、意外な好投を見せたのがポステルマンス。ツインズで先発ローテーションを担う彼は、2試合に先発し8イニングと2/3を6被安打8奪三振3失点。勝ち星さえつかなかったが、緩急をつけながら試合を作る投球を展開した。

 ただ、全体的に言えることは他国と比べた圧倒的なスピード不足。ファストボールプロジェクトを立ち上げ投手陣の球速・レベルアップに注力しているだけにこの結果は残念。デフラーウも90マイルを超えたとの情報があったはずだが、、、

 

 一方でリリーフ陣には光明も見えた。カシミリ、メンデスのマイナー組が150前後の速球を見せつけたのはもちろん、フル代表にも選出された国内組のデフロート、ホネッシュが145キロ近い威力ある球を投げ込んでいた。両者とも所属するチームでは先発も経験しているが、今大会では大事な場面でリリーフとして登板し相手の攻撃の流れを止める役割を担った。

f:id:honkbaljp:20211018190401g:plain

ジオジェニー・カシミリ投手

 デフロートは大きなスライダー、チェンジアップと伸びのあるフォーシームで三振の山を築いた。大会中4イニングで9奪三振、無失点は圧巻の数字だ。

 ホネッシュは90マイルに迫るカッターで打たせて取る投球を繰り広げた。被安打9、7失点と数字は伴わなかったが、内容や登板した場面が厳しかったことを考えると致し方ない。弱冠19歳のこれからが非常に期待できる投球だった。

f:id:honkbaljp:20211018190507g:plain

ジェイデン・ホネッシュ投手

 参考に、最高球速が140キロを超えた投手を載せておく。

 カシミリ153キロ

 メンデス148キロ

 デフロート146キロ

 ホネッシュ144キロ

 コク144キロ

 バケル144キロ

 マドゥロ143キロ

 ポステルマンス143キロ

 クラハト141キロ

 

 リリーバーではデフロート、ホネッシュ以外にもコク、バケルらが奮闘。彼らも平均して140キロを超える速球を投げ込んでいた。中継ぎ投手はフル代表でもスタイフベルヘン、ファンミルらが引退し、手薄になっている。マーティス、ケリー、フローラヌスらが何とか穴を埋めている状況だ。ただし、彼らだけでは、WBCを勝ち上がっていくのは至難の業だ。150キロを超えるカシミリ、さらなる成長が期待できるデフロートやホネッシュの中から将来のオランダ代表勝ちパターンが生まれるのを期待したい。

f:id:honkbaljp:20211018205840g:plain

ラフ・コク投手



 

 チームとしては、十分な成績を残せなかった今回のU23オランダ代表。しかし、一人ひとりのプレーヤーを見ていくと、オランダ代表の未来につながるような選手も見られた。彼らが今後アメリカの大学で成功を収め、MLBと契約できるのか。はたまた、アメリカンドリームを諦め、オランダのホーフトクラッセで爪を研ぐことになるのか。いつの日か、WBCでオランダのユニフォームを身に纏った彼らの姿を想像し、これからも彼らの勇姿を追いかけていきたい。

”世代交代”の象徴U23世代とHCAW旋風 ~2021オランダ投手タイトル~

 政治の世界では自民党の総裁選を控え、各総裁候補者たちが様々なメディアに出演し、論戦を繰り広げはじめた。総裁選の後は、衆議院総選挙が予定されており、自民党政治の継続か、政権交代か、日本の政治も大きな転換点に差し掛かりつつある。こと10数年前の日本では、民主党が“政権交代”というキーワードを前面に打ち出した。あらゆる演説でこのワードを訴えかけ、日本国民の新しい政治への期待を煽り、遂には初の“政権交代”を成し遂げた。

 

 さて、私もここ最近オランダ代表の“世代交代”をあらゆる場面で訴えかけている(笑)。しかし、実際に東京五輪最終予選に敗退して以降、王立オランダ野球ソフトボール協会(KNBSB)も“世代交代”に大きく舵を切り始めた。もはや、この“世代交代”は、オランダ代表を元のステージに戻すため、更にはネクストステージへ押し進めるためのパワーワードとなっている。

 

 今季、2021年。代表からコルデマンス、マークウェルという、レジェンド級の左右エースが引退し、この言葉の実現が少しずつ近づいてきている。実際に投手十傑には今までにない顔ぶれが並ぶ。

f:id:honkbaljp:20210921172920p:plain

2021個人投手十傑

 規定投球回NPBMLBと同じ、試合数の42回にした場合、最優秀防御率に輝くのはナウト・クラハト投手。L&Dアムステルダムに所属する彼は、現在20歳で2019年にはU18ワールドカップで代表、今年はU23ユーロで代表に選ばれている。140前半の速球、スライダー、チェンジアップを駆使するオーソドックスな投球スタイルの投手。五輪最終予選で好投したトム・デブロック投手がメキシカンリーグへ移籍すると、その穴を埋める形で先発ローテーションへ加わった。防御率1.66、5勝2敗の成績を収めた。

f:id:honkbaljp:20210921172655j:plain

ナウト・クラハト投手(photo:MvW.Fotografie)

 他にも同じ世代で台頭した選手がいる。パイオニアーズのスコット・プリンス投手。防御率2.06で4勝1敗。アムステルダムのジオ・デフラーウ投手。防御率2.55で5勝1敗。この3人に共通しているのは全員がファストボールプロジェクトという投手育成チームのメンバーということ。若手投手の球速アップや技術力向上を目的に設立したこのプロジェクトは、投球をデータ化して解析したり、アメリカでの合宿を行うなどして若手投手の育成を行っている。現に、ジオ・デフラーウ投手は既に90マイルを超える速球を投げているうえ、他にもさらに下の世代の投手で90マイルを超える投手がチラホラ出てきている。

f:id:honkbaljp:20210921172812j:plain

ジオ・デフラーウ投手(photo:Alfred Cop)

 伝統的に野手はキュラソーアルバ、バッテリー陣はオランダ本国、という構図になりやすかったオランダ代表だが、これまでのそうした特性を維持できるよう若手投手の育成に注力してきた成果が芽生えてきているのだ。

 既にフル代表に選出されたネプチューンズのアーロン・デフロート投手もそのメンバーの一人で、規定投球回未定ながら防御率1.83、3勝2敗と好成績。昨年まではリリーバーを務め、今年からは先発に回ったが、どちらの役割もこなせるのは代表に選出されても使い勝手が良い。身長は低いが、西武ライオンズの平良投手のように威力あるまっすぐはヨーロッパ選手権でも各国の強打者が苦戦を強いられていた。

 9月23日からU23ワールドカップが開幕するが、この4投手はもれなく選出されている。これまでのU23代表には、ホーフトクラッセで成績を残している投手は多くなかった。こうした未来ある投手たちが世界を相手にどこまで通用するか見物であるし、一人でもMLBの球団と契約できるような選手が出てくればいい。

 

 ただし、そんな若手の突き上げもある中、圧倒的なMVP級の成績を見せつけたのがHCAWに移籍したラルス・ハイヤー投手。コルデマンス、マークウェル去りし後、オランダ代表の中心になっていくのが彼なのは間違いない。これまでのWBCなどの国際大会での結果を見ると、90マイル前後の速球では抑えるのが難しく、得意のスライダーも捕らえられる印象が強かった。しかし、東京五輪の最終予選では負けたら終わりのベネズエラ戦にリリーフ登板し3回1/3を2奪三振無失点に抑え、試合の流れをオランダに引き戻す好投をした。シンカーを中心に低めに集め、ボールが飛びやすいといわれるメキシコの休場も考慮したのか、ゴロに打たせて取る投球が光った。

 今シーズンは防御率や勝利数もさることながら、投球イニングは106回2/3で、完封2回を含む完投3回、奪三振も断トツの128個で圧倒的な数字だった。五輪最終予選でドミニカ相手に好投を見せたデブロックとともに、今後のオランダ代表の先発陣の中心になってもらわないと困る選手だろう。

 ベテランのマークウェルや、同じ代表で先発投手のスルバランも防御率や勝利数では彼と変わらない成績だが、被打率や奪三振数、投球イニングなど、様々な指数をみていけばハイヤーのピッチングの質が最高だったのは一目瞭然。投手から今シーズンのMVPを選ぶならば間違いなくハイヤーだろう。後は、現在行われているプレーオフであと1勝すればチームがオランダシリーズへの切符を勝ち取る。初めての大舞台で活躍する姿を期待したい。願わくば、デブロックVSハイヤーを見たいものだ。

f:id:honkbaljp:20210921173117j:plain

ラルス・ハイヤー投手(photo:Line Drive Capture)

 リリーフピッチャーでは、目立ったのはHCAWのニック・クール投手だろうか。U23代表には選ばれたことのある左腕だが、フル代表選出歴はない巨漢投手だ。今期は守護神として6セーブを挙げ、チームの躍進に大きく貢献した。現在、マークウェル引退後、左腕投手が不在だ。貴重なリリーフ投手として代表に必要とされる人材なのは間違いない。来年も安定的にパフォーマンスを発揮できれば、代表招集も夢ではないだろう。

f:id:honkbaljp:20210921173203j:plain

ニック・クール投手(photo:MvW.Fotografie)

 こうして見ると、躍進したHCAWは先発ローテーションが3人ハイヤー、プルーヘル、ブルヘルスデイクと揃い、守護神にクールとピッチングスタッフの貢献度は非常に高かった。しかし、2強のアムステルダムネプチューンズにも、クラハト、デフロート、デフラーウなど、次世代を担う若手投手が出てきており、来年以降、チームの中心となっていけるか、順調に“世代交代”を進めていけるか、今から楽しみだ。

f:id:honkbaljp:20210921173312p:plain

勝利数

f:id:honkbaljp:20210921173330p:plain

奪三振

f:id:honkbaljp:20210921173347p:plain

セーブ数

個人成績も上位2チームが独占?! ~オランダ2021打撃タイトル~

 前回の記事でも書いた通り、例年ホーフトクラッセは上位チームと下位チームの差が大きく、下位チームは大きな戦力補強をしない限り上位4チームに入ることすら難しい。そのため、オランダ代表選手などは、ほとんどが上位4チーム、とりわけネプチューンズアムステルダムに所属している。これは、個人タイトルを見ても一目瞭然だ。

 

f:id:honkbaljp:20210920172543p:plain

2021個人打撃十傑

 実際に今季、打撃十傑に入る選手(今回は9位が同率3人のため11人)のうち、7人はネプチューンズアムステルダム、2チーム所属の選手だ。資金力に勝る上位2チームが代表選手等を囲い込んでいるのが実情だ。下位チーム所属であっても、タイトルを取るほどの選手が出てくれば、たちまち上位チームに引っ張られる。こういった形で、資金力の差が、ここ20年程の蘭球界は如実に表れている。

 

 その中で、かつてネプチューンズでプレーし、代表選手等から活躍の場を奪われ、下位チームに移籍した選手が、主力としてタイトルを奪還した。ツインズのシャーマン・マーリンだ。

f:id:honkbaljp:20210920174933j:plain

シャーマン・マーリン内野手(photo:Henk Seppen)

 アルバ出身のマーリンは2014年にホーフトクラッセデビュー。初ホームランは何とオランダシリーズでの一発だった。しかし、その後ブークハウトやデクーバら代表経験もある選手が加入すると出場機会を求めて移籍する。2018年からはツインズに加入し、主軸として成長してきた。29歳の今季、打率は.273ながら7本塁打を放ち、本塁打王に輝いた。2年ぶりにプレーオフに進出したツインズの中心として、若手の多い打線をまとめあげた。代表経験はない選手だが、こうして下位チームで成長し、タイトルホルダーになったのはホーフトクラッセにとっていいこと。もっともっとこうした選手が出てきてほしい。

 

 ただ、今年のMVP候補、ホーフトの顔だったのはやはり代表選手。デンゼル・リチャードソン外野手だ。東京五輪の最終予選にも選出され代表メンバーとしての定着が期待される選手だが、打率、打点、最多安打のタイトルを総なめにした。42試合のフルスケジュールで.438のハイアベレージは驚異的な数字だ。また、盗塁も21個決めており、抜群の身体能力を生かしたプレースタイルが魅力的な選手だ。

シントマールテン出身の28歳で、コロラドロッキーズ傘下でプレー経験があるが、ルーキーリーグ止まりで芽が出なかった。2015年にリリースされた後は、アメリ独立リーグでプレー。2018年にホーフトクラッセDSSに加入し、打率.343、6本塁打と活躍を見せると強豪アムステルダムに移籍した。普段はジムのパーソナルトレーナーとしてアスリートを指導しながらシーズンを過ごしている。オランダ代表の外野陣もオデュベル、サムスが代表引退、バーナディナも37歳。彼が国内でパフォーマンスを維持し、MLB組不在の国際大会では中心となるべき選手だろう。

f:id:honkbaljp:20210920175021j:plain

デンゼル・リチャードソン外野手(photo:Line Drive Capture)

また、昨年からネプチューンズのショートとして定着したポローニアスは首位ネプチューンズリードオフマンとして不動の活躍だった。安定した守備が特徴的な選手だが、パンチ力も秘めた打撃も安定している。彼もサンフランシスコジャイアンツ傘下でプレーしたが、シングルAが主戦場。リリース後はイタリアボローニャでプレー。昨年からオランダに移籍し、代表にも入るようになった。守備、打撃両面でファンデルミールを上回り、彼を代表引退に追いやったが、ポローニアス自身もすでに30歳。MLB組抜きの代表では彼やダールがショートを守るが、セラッサ、ファンデサンデンら大学世代の内野手も育ってきている。

 セラッサ、ファンデサンデンは、シーズン序盤アメリカの大学でプレーする。ホーフトクラッセに出場できるのはシーズン中盤からだ。両選手とも少ない打数ながらセラッサが.299、ファンデサンデンが.369と高打率をマーク。U23ユーロでは二遊間コンビでオランダを優勝に導いた。今月下旬からはU23ワールドカップが開催される。そこで活躍し、さらなる飛躍、将来的にはポローニアスからフル代表でのレギュラーを奪うところまで期待したい選手たちだ。

f:id:honkbaljp:20210920175156j:plain

トミー・ファンデサンデン遊撃手(photo:MvW.Fotografie)

 また、HCAWからランクインしている2人は、チームを躍進に導いた2人。彼らが2、3番として機能したおかげでオランダシリーズ進出まであと一歩のところまで来ている。

 特に今シーズンパイオニアーズから加入したフィクター・ドライアーは、昨年コロナによる短縮シーズンながら、打率.500でMVPを獲得した選手だ。もともとはアムステルダムでセカンドを守っていた選手だが、昨年パイオニアーズに移籍し、才能が開花した。今年も打率.326でフルシーズンでは初めて3割を超えた。既に28歳で中堅選手ではあるが、ハーレムホンクボルウィークやワールドポートトーナメントなど、オランダ主催国際大会で代表デビューさせてみたい選手だ。タイプ的には元代表選手のバス・デヨング、日本では内川誠一選手など、広角に打ち分けられる中距離打者だ。彼もまた、リチャードソンと同じく、高齢化が進む代表外野陣に風穴を開けられるよう、ホーフトクラッセで奮闘してほしい。2022シーズンはアムステルダムへの出戻りがあるかもしれない。

 

 下位チームのストークスからは若いジャマニーカ選手が打撃十傑にランクインした。U23にも選ばれており、彼も来年以降の上位チーム移籍が予想される。パンチ力があるはずだが、本塁打は0。デンハーグの本拠地は球場が2面あるため、両翼が100m超でセンターが110mほどしかない。その分フェンスは高いが本塁打が出にくい球場ではないはず。もっと打球が上がるようになると、さらなる成績向上、フル代表選出にもつながるだろう。

 

 今年の打撃十傑を総じてみると、代表常連選手にリチャードソン、ドライヤーなどのニューフェイスが台頭してきた。更には、規定打席に到達していない大学世代の活躍もある。代表の世代交代に向けて少なからず希望の持てるシーズンだったと言えるだろう。

 来年はこうした選手がどこまで成長できるか。更にはアメリカの大学で活躍する選手たちがホーフトクラッセで主力となれるか。それとも、大学を経由してMLBとの契約を勝ち取ることができるだろうか。これまでアメリカの大学を経てドラフトにかかった選手はファンデルミールぐらいだ。どちらにしても、彼らの成長がオランダ代表のネクストステージに不可欠だ。

f:id:honkbaljp:20210920175316j:plain

ルーク・ルーフェンディーボールパーク(photo:Line Drive Capture)

f:id:honkbaljp:20210920175509p:plain

本塁打

f:id:honkbaljp:20210920175527p:plain

打点

f:id:honkbaljp:20210920175540p:plain

最多安打

f:id:honkbaljp:20210920175553p:plain

盗塁

f:id:honkbaljp:20210920175626p:plain

OPS

 

2強は不動も若手と日本人が躍動!? ~2021年蘭ホーフトクラッセ~

 ベーブルース以来、103年ぶりの二桁勝利・二桁本塁打に向けて大谷翔平選手は正念場を迎えている。残り20試合に近づき、本塁打王争いではゲレーロ.Jr選手やペレス選手が猛追。調子を戻し、このまま本塁打数を伸ばし、タイトルを射止められるかに注目が集まる。

 

 オランダでは一足先にシーズンの全日程が終了。今年もネプチューンズがシーズン1位通過を決めた。

 

f:id:honkbaljp:20210912115152j:plain

2021年ホーフトクラッセ順位表

 

○不動の2強とパイオニアーズの凋落

 上位2強は変わらず。ただし、何より例年と様相が変わったのが、3位4位。これまで10年以上近く4強を守ってきたパイオニアーズが凋落。コロナの影響で通常の半分21試合しかできなかった昨年の勝利数13勝と同じ数しか勝てず、5位に転落。代表でも主力のエースハイヤー、ローテ投手のファウが抜けた穴が大きかった。打線でも昨年のMVPフィクター・ドライアー、遊撃の守備が要だったマックス・ドライヤーが抜けた。レッドソックスで活躍するボーハールツ(ボガーツ)の双子の兄弟が加入するも打線の弱体化は止められなかった。

 

○オランダの広島カープ、HCAWの躍進

 これに代わって一躍3位に躍り出たのがHCAW。これまでも若手有望株の宝庫として、数々のオランダ代表選手を輩出してきた。楽天でプレーしたルーク・ファンミル投手もこの球団の出身だ。首都アムステルダムの郊外バッセムを本拠地とし、地元の熱烈なファンに支えられる歴史ある球団だが、今年は大補強に踏み切った。パイオニアーズのエースハイヤーアムステルダムから代表でも活躍した左腕のプルーヘル、もともとこのチームでエースだったグラウンドボーラーのブルヘイスデイク。この3人でシーズンを通してローテーションを安定して回せたことが非常に大きかった。また、クローザーとしては左腕のクールが6セーブをあげた。

 

f:id:honkbaljp:20210912115812j:plain

ラルス・ハイヤー投手(Photo:Alfred Cop)

 打線の中心は昨年MVPのフィクター・ドライアーとボニファシオ。この2人が2番3番で固定できため、一定の得点パターンを確立できた。脇を固める打者にも元プロスペクトのダール捕手やアムステルダムでユーロ優勝も経験したベテランクルースなど2強に引けを取らないタレントが揃ったことが大きかっただろう。

f:id:honkbaljp:20210912115839j:plain

昨年のMVPフィクター・ドライアー選手(Photo:Henk Seppen)



○U23世代と日本人選手が融合したツインズ

 2016年に2部オーフェルハンフスクラッセから昇格したツインズ。それから毎年のように日本人選手を補強してきました。元阪神タイガースの新人王、上園啓史投手。横浜やホークスで活躍した吉村裕基選手。NPBでも活躍した選手たちが所属し、若い選手たちとともに汗を流してきた。

 

 

 今期からはBCリーグ茨城アストロプラネッツと業務提携を結び、若い投手2人をツインズに受け入れた。中村泰成投手は先発ローテとして、大場駿太投手はリリーフエースとしてチームのAクラス進出という躍進の大事なピースになったのは間違いない。シーズン1位のロッテルダムネプチューンズから勝利を挙げた試合の立役者にもなり、彼ら日本人が若手と融合した。

f:id:honkbaljp:20210912192816j:plain

大場 駿太投手(photo:Line Drive Captures)

f:id:honkbaljp:20210912191532j:plain

中村 泰成投手(photo:Martine van Wely Fotografie)

 当時からいる選手も少なくはなってきたが、2019U18オランダ代表だったタイリック・ケンプ内野手やルードリック・ピーターネラ外野手などが1年間通して経験を積み、ある程度の数字を残せたのは大きい。投手ではポステルマンスも高い奪三振率を誇り、中村投手とともにローテーションを回した。また、アメリカの大学でプレーし、1~2月にはヤクルトのファンデンハルク(バンデンハーク)投手の練習相手も務めるデイフ・ヤンセン捕手はディフェンス面で安定し、投手陣を引っ張った。

 すでに行われたプレーオフでは、首位のネプチューンズに3連敗し、シーズンが終了したが、若い選手たちには刺激的な1年になったのではないだろうか。冬の移籍市場で若い選手たちの去就がどうなるか分からないが、来年が非常に期待される。また、来年はどんな日本人が加入するのか、更には、ツインズからBC茨城へのオランダ人選手の移籍はあるのか、蘭球界でも話題の多い球団になってきた。

 

 

 さて、フライングしたが、シーズン終了後9月3日からプレーオフが始まった。シーズン1位VS4位、2位VS3位がそれぞれ3勝勝ち抜けで争い、勝者同士がオランダシリーズに進む。9月12日現在の結果はこうだ。

 

f:id:honkbaljp:20210912120220p:plain

プレーオフ勝敗(9月12日現在)

 プレーオフBはHCAWが王手をかけているが、ヨーロッパ選手権が開幕するため、次戦は9月25日。2019年覇者のアムステルダムを破りオランダシリーズへのチケットを手に入れられるかどうか、注目が集まる。

 

 プレーオフヨーロッパ選手権については、Twitterで情報発信していくのでそちらもチェックして欲しい。

 また、次回からは個人タイトル・成績にフォーカスして紹介していく。

始まる世代交代 ~U23ユーロ優勝~

 25年ぶりの優勝へあと一歩二歩と迫っているオリックス。これまで山本由伸投手や吉田正尚選手などスター選手を擁しながら、選手層の薄さなどが響き、優勝から遠ざかってきた。しかし、今季は杉本選手、宮城投手、宗選手、福田選手など期待の若手が台頭し、ついこの前まで首位を走ってきた。優勝の手の届くところまでチームを押し上げたのは間違いなく若手の力ではないでしょうか。

 

 さて、地球の裏側には長年世代交代ができず、40歳前後の選手に頼り切りのチームがある。それは野球オランダ代表だ。長年代表を支えてきたコルデマンスやマークウェルは40歳を過ぎ代表を引退し、五輪最終予選では惨敗。その惨状に危機感を募らせたKNBSB(王立オランダ野球ソフトボール協会)は30歳前後の代表選手たち4人(ファンデルミール、レオノラ、ランペ、オデュベル)について代表強化選手から除外することを決定した。いわば、代表の若返りを図っていこうというのだ。

 おそらくこれには、コロナ禍によりMLB球団からリリースされたキュラソーアルバの選手が多数ホーフトクラッセ(オランダ国内リーグ)に入ってきており、その選手たちへの給料を捻出するための言わばリストラともいえる。ただ、それを差し引いても代表で実績ある彼ら、ましてや未だ中堅に位置する選手たちを切ったのはKNBSBの並々ならぬ覚悟を窺い知れる。

 

 こうした中で開催されたのがU23ヨーロッパ選手権。結果はオランダの優勝。協会が期待している若手の成長は、U18ユーロに続き、目に見える形で結果として現れた。オランダ代表の戦績を示しておく。ロースターは前回記事の末尾に掲載している。

 

f:id:honkbaljp:20210909235920p:plain

U23ユーロ蘭代表戦績

 

 

 決勝戦のフル動画はこちら。NED - GER Gold Medal Game

 

 結果は5勝0敗。その内4試合は10得点以上と、打線が爆発した。U18時代から選出されていた選手も多数おり、そうした選手が投打ともに中心を担った。ここ数年で着実に力をつけている証だろう。

 また、この世代になって初めて代表入りした選手もおり、現在ホーフトクラッセで活躍できている所以を垣間見ることができた。

 

 また、特筆すべきことは今シーズンホーフトクラッセで4位につけ、2018年以来のプレーオフ進出を決めたツインズの選手たちだ。20人中6人がツインズからの選出である。今シーズン若い選手たちを中心に戦ったのにもかかわらず4位の位置でゴールできたのは、まぎれもなくこうした若い選手たちの成長があったからだ。

 その代表格がデイフ・ヤンセン捕手。4試合でスタメンマスクを被り、投手陣を引っ張った。オランダの捕手によく見られる後逸もほとんどなく、絶妙なブロッキングで投手は安心して変化球を投げていたし、スローイングも強く正確だった。打率こそ1割台ではあったが、決勝戦ではチーム初ヒットを放ち、先制のホームを踏んだ。

 現在はアメリカの大学に在学中。3年目を迎えた今季は54試合の出場で打率.306、2本塁打、34打点と打撃でも進化を見せている途中だ。大学がオフシーズンの間は帰国しツインズでプレーをしている。1~2月の自主トレ期間中には日本でプレーするバンデンハーク(蘭発音:ファンデンハルク)の練習相手を務めたりしている。

 オランダ代表の捕手は、レジェンドとして長年レギュラーを務めたシドニー・デヨンング(現代表打撃コーチ)引退後は、リカルドやサラガが務めてきたが彼らも30歳を過ぎた。MLB傘下ではサンフランシスコ・ジャイアンツのトロンプが昨年初のメジャー昇格を果たした。トロンプが出場できるWBCでは安心だが、それ以外のメジャーリーガーが出場できないような大会ではまだまだ層が薄い。ヤンセンには、そこに割って入るような捕手になれるだけの素材がある。

 U18でも才能ある捕手たちが活躍した。ヤンセンが国内でプレーしている間は、身近にいい教材があると思って吸収すべき守備力を持った選手だ。

 

 9月12日からはフル代表の野球ヨーロッパ選手権が開幕する。そのメンバーも先日発表されたばかりだが、その中にU23から2人が選ばれたのだ。首位打者ユリアン・リップ外野手と最優秀投手賞のアーロン・デフロート投手だ。



 2人ともアメリカの大学でプレー、さらにはホーフトクラッセで既に主力として数字を残している選手なので納得の選出となった。

ユリアン・リップ 44試合 打率.345、51安打、4本塁打、31打点

アーロン・デフロート 6試合先発 3勝2敗、防御率4.45、47奪三振、32.1投球回

 

 ただし、これまで通りであれば外野であればオデュベルやランペが選ばれていたことを考えると、こうして早くに選出されたことは幸運とも言える。

 ただ、若くして代表戦を経験させられるのは今後のオランダ代表にとってもスムーズに世代交代を進めていけるだろうし、将来に向けた投資に協会は舵を切ったのだと改めて実感する。

 

 外野手は主砲サムスが選外であり、MLB経験のあるバーナディナ以外に不動のレギュラーはいない。また、投手陣ではファンミル、スタイフベルヘンが代表から退いて以降、リリーフエースや守護神としての存在がいなくなっている。彼ら二人に期待されるのはそうした役割であるはずだ。

 ただ、試合に使ってもらわないことには彼らも活躍できない。「世代交代」に対する協会の覚悟は見せてもらった。今度は首脳陣に覚悟を持って若い選手たちを起用し欲しい。彼ら2人の活躍でオランダがユーロ制覇を果たし、さらに若い選手たちの道しるべになってくれるはずだ。

 

【参考】

デイフ・ヤンセン捕手大学成績

 

ユリアン・リップ外野手大学成績

 

アーロン・デフロート投手大学成績