蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オランダ代表直前分析 ~世代交代の波~

 オランダ代表は1大会ごと着実にWBCという大会の階段を登ってきた。第2回大会ではメジャー軍団のドミニカ共和国を2度撃破し2次ラウンド進出を決め、第3回大会では国際大会の雄キューバにサヨナラ勝利で準決勝進出、第4回大会では主砲バレンティン(元ヤクルト、ソフトバンク)が日本の投手を打ち砕きあと一歩で日本を撃破する寸前だった。

 特にこの2大会において、チームをけん引してきたのはバレンティンを中心とするカリブ海に浮かぶオランダ王国の構成国の一つであるキュラソー出身の選手たちだ。そんな彼らも選手人生の終わりの足音が聞こえてきた。バレンティンは38歳で今大会限りでの引退を表明しており、メジャーリーグで名を馳せたグレゴリウス、シモンズ、スホープらも脂ののった20代を過ぎ、全盛期を超えた感は否めない。今回の大会は、過去2大会を引っ張ってきた主力組が主戦力として戦える最後の大会となるであろう。

ウラディミール・バレンティン(photo:Louie Jay Sienders)

 

 キュラソーは人口10万人の島ながら、野手のメジャーリーガーを多数輩出してきた。そんな彼らの“アイドル”がアンドリュー・ジョーンズだ。イチロー活躍期に少年期を過ごした世代の日本人選手には左打が多い。みながイチローにあこがれ、イチローの真似をし、日本の野球少年にとっての“アイドル”だったイチローのようになろうと、右打の少年が左打に転向するケースも少なくなかった。そんな現象がキュラソーでも起こった。アンドリュー・ジョーンズの影響で、キュラソーの30歳前後の選手には野手が多く、彼らがメジャーへと羽ばたいて行ったのだ。

 

 しかし、そんなAJ世代と言える彼らの下の世代が育っていない。

 前回大会後に新たにメジャーに昇格した選手はアトランタ・ブレーブスで2021年に30本塁打を放ったオジー・アルビースのみ。彼は昨シーズンのほとんどを怪我により欠場を余儀なくされたこともあり、オランダ代表は辞退している。その他にはテキサス・レンジャーズで2020年に7試合に出場したアポステルぐらいだ。

 こうした現状により、前回大会とほぼ同じメンツで戦わざるを得ない。外野の層が薄いところはキュラソーアメリカ人メジャーリーガーのパラシオス兄弟を招集することで穴埋めしている。オランダ代表の野手陣の様相は、世代交代に失敗する直前、風前の灯と言っても過言ではない。ろうそくの灯が消えきる前に、なんとしても照らさなければならないものがあるはずだ。

 

 一方の投手陣はどうだろうか。前回大会でオランダ躍進の大きな要因となったのが盤石のリリーバーだった。守護神のファンミル、セットアッパーのスタイフベルヘンをはじめ、デブロック、マーティスらが日本やプエルトリコら猛者たちをかわして勝利へつないだ。しかし、ファンミル、スタイフベルヘンが代表を去り、先発陣も世代交代の中でデブロック、マーティスは先発に回らざるを得ない。そんな中リリーバーの穴埋めをするのはオランダ系アメリカ人でアストロズ傘下所属のウェスト。さらにはアルバ出身のアントワネ・ケリーは160キロに迫る速球を持ち合わせている。ほかにもシンシナティ・レッズ傘下のフランセンも代表入り。アメリカマイナーで経験する選手たちが前回のリリーバーたちのような活躍を見せられるだろうか。

 

 しかし、リリーフ陣だけに限らず、先発投手陣を含めた投手陣全体が世代交代真っただ中ということを忘れてはならない。

 前回大会までは代表入りしていたコルデマンスやマークウェルといった代表常連の大ベテランたちが引退。アトランタ五輪から経験してきた彼らがいなくなったことは非常に大きい。さらには、世界のトップリーグで活躍したバンデンハーク、ジャージェンスの2枚看板の引退はチーム力に直結する問題である。

 今回の大会フォーマットでは1次リーグで4試合を行うため4枚の先発投手が必要となる。しかし、世代交代真っただ中の今回のチームでは、そこに4枚の先発投手を当てはめるのにも苦労するほどだ。開幕戦の先発には右肘手術明け初の公式戦登板となるトム・デブロックが決まった。デブロックやマイナーでプレーする有望株のエスタニスタらが期待以上の活躍を見せてくれるのは上位進出の必須条件となる。

ラース・ハイヤー(photo:Louie Jay Sienders)

 

 この、投手陣の状況を考えると、オランダが勝ちやすい一番のパターンは打線で打ち勝つパターンだ。このチームにはそれができるだけのタレントが揃っている。パドレスと大型契約したボーハーツや、シーズン60本塁打バレンティンらと聞けば想像できるだろう。しかし、本戦前の強化試合の結果は1勝5敗と大きく負け越し、打線も湿りがち。チームリーダーのボーハーツ自らが「我々はもっと状態をあげなくてはいけない」と漏らすほどだ。最後の2試合ではバレンティンとバーナディナにホームランが出たものの、肝心のメジャー組に快音は聞かれていない。今回のチーム事情からある程度の打線の爆発は勝ち抜けへの必須条件。「水曜日には必ず合わせる」といったチームリーダーの言葉を信じるしかない。

 

 風前の灯火となったオランダ代表はあっけなく台湾ラウンドで消えてしまうのか、それとも新たなろうそくに火を灯す救世主が現れるのか。打撃陣が本来の姿を取り戻し、投手陣に我々の予想を覆すパフォーマンスを見せてくれる存在が現れれば、必ず素晴らしい景色を照らせるはずだ。惜しくも昨季限りでの引退を決断したコルデマンスは2013年の日本戦前に、「ここで日本に勝ったらオランダに野球フィーバーを起こせる」といった。その言葉が忘れられない。そんな景色を照らしてくれるのは、果たして今回の大会なのだろうか。

 

【強化試合結果】

1勝5敗

オランダ 1-4 ハンファ

オランダ 4-15 ハンファ

オランダ 7-5 LGツインズ

オランダ 2-8 ネクセンヒーローズ

オランダ 1-2 富邦ガーディアンズ

オランダ 2-4 TSGホークス

 

【大会日程・予想先発投手】

WBC2023大会日程(オランダ)

1次ラウンド @台中(台湾)

  8日キューバ戦 デブロック

  9日パナマ戦  エスタニスタ

 11日台湾戦   マーティス

 12日イタリア戦 ハイヤー

準々決勝 東京(日本)

 15・16日 デブロック

準決勝 マイアミ(アメリカ)

 19・20日

決勝  マイアミ(アメリカ)

 21日

2023WBCオランダ代表選手名鑑

 WBCに出場しているオランダ代表は、正確には「オランダ王国」代表であり、みなさんがご存知の「オランダ」とは完全に同じ意味ではありません。「オランダ」とは「オランダ王国」の構成国の一つに過ぎません。「オランダ王国」は他に、「キュラソー」や「アルバ」「シントマールテン」といったカリブ海の3つの国を加えた4か国で構成されています。マスメディア等でしばしば「オランダ領」と称される「キュラソー」や「アルバ」は、正確には「オランダ領」ではなく、「オランダ王国」構成国のひとつなのです。例えるなら、「イギリス」の構成国に「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」があるのと比較するとわかりやすいでしょうか。サッカーでは「イングランド」などと同じく、「キュラソー」や「アルバ」もそれぞれ代表チームを組織しています。

 

 ですので野球オランダ代表には白人も黒人もまぜこぜです(もちろん「オランダ」にも黒人の方はいます)。オランダ人、キュラソー人、アルバ人などなど、様々な地域で育ち、様々な文化を持ち合わせる選手たちが「オランダ王国」という名のもとに団結し情熱をかけてプレーしているのもオランダ野球の魅力の一つです。

 また、彼らの中にはオランダ国内リーグホーフトクラッセセミプロとして活躍する選手。はたまた、アメリカのMLB傘下でプロとして活躍する選手が存在します。こうした異なる舞台、レベルでプレーする選手たちが一堂に会して優勝を目指すというのも、オランダ代表におけるロマンのひとつです。

 オランダ代表のはユニフォームには「Kingdom of the Netherlands(オランダ王国)」と記されており、キュラソーやアルバなども含めた意味となっています。

 それでは、「オランダ王国」のもとに集まった代表選手たちをご紹介します。

 

【例】

背番号 名前日本語/ローマ字 身長/体重 生年月日 年齢

所属チーム 投打 「出身地」

 

【投手】14人

20 マイク・ボルセンブルーク/Mike Bolsenbroek 203cm/95kg 1987年3月11日35歳

  ハイデンハイム(ドイツリーグ) 右右 「オランダ」 先発

 ドイツ代表経験もある異色なオランダ人右腕。18歳でオランダ・ホーフトクラッセデビューを果たす。ホワイトソックスにドラフト指名されるも断り、ドイツの強豪レギオネーレへ。翌年ドラフト外フィリーズとの契約を掴む。3年間マイナーでプレーするもリリースされ、次の活躍の舞台として選んだのは再びドイツだった。レギオネーレのエースに成長し、ドイツの市民権を得たことで2012年のWBC予選ではドイツ代表として出場した。

 しかし、彼の活躍を嗅ぎつけた王立オランダ野球協会が慌てて呼び戻し、2014年のハーレムベースボールウィーク(オランダ主催の国際大会)では初めてオランダ代表入りした。それ以降はほぼすべての国際大会でオランダ代表として選出されており、前回2017年WBCではリリーフとして活躍。2次ラウンドの日本戦では7回2アウトカウント2-2の打者の途中というなんとも難しい場面で登場し、小林捕手を三振に取った。

 ストレートは140キロ中盤だが、スライダーや落ちる球で打ち取っていく。

試合 防御率 勝 負 三振 セーブ

マイク・ボルセンブルーク(photo:Phrake Photography)

 

45 フアン・カルロス・スルバラン/Juan Carlos Sulbaran 188cm/99kg 1989年11月9日33歳 ロッテルダムネプチューンズ 右右 「キュラソー」 先発

 オランダ代表常連の元プロスペクト。マイナーで8年プレーするも49勝65敗防御率4.86と十分な成績を残せずメジャーに昇格することもできなかった。代表デビューは2009WBC、その後もコンスタントに代表入りする目立った活躍はできていない。マイナーをリリース後はオランダホーフトクッラセ入り。デンハーグ、ハーレム、アムステルダムロッテルダムと渡り歩き、各チームの主戦級として活躍している。特徴はストレート、スライダー、チェンジアップのコンビネーション。球速は140中盤ほどであるが、それゆえ力で押そうとすると打ち込まれる場面も。

 今大会から1次ラウンドが1試合増加することから、彼には第2先発として長いイニングを消化してもらう役割が期待される。

試合14 防御率2.20 勝9 負2 三振70 セーブ0

フアン・カルロス・スルバラン(photo:Phrake Photography)

 

39 シャーロン・マーティス/Shairon Martis 185cm/102kg 1987年3月30日35歳

 ロッテルダムネプチューンズ 右右 「キュラソー」 先発、リリーフ

 若い頃から長年代表を経験してきた右腕。MLBでも26試合登板した。その後は台湾にも移籍し、28試合8勝7敗の成績を残した。2020年からはオランダホーフトクッラセのアムステルダムパイレーツへ移籍、エースとして活躍し2021年のオランダシリーズでは1戦目に完封し、親族の結婚式に出席するため一時キュラソーに帰省するも7戦目までもつれたためとんぼ返りで再度先発し完投。チームを優勝に導いた。

 WBCにも3回出場しており、2006WBCでは7回参考記録ながらノーヒットノーランを達成した。落ちるスライダーが武器。調子が悪いと球が真ん中に集まる制球難が欠点。球種はストレート、スライダー、チェンジアップなど。中継ぎの経験も豊富な右腕は、前回大会の勝ちパターンリリーバーがいなくなった今大会は、ストッパーとしての役割も求められる。

試合17 防御率1.22 勝6 負1 三振72 セーブ3

シャーロン・マーティス(photo:Henk Seppen)



16 ラース・ハイヤー/Lars Huijer 193cm/92kg 1993年9月22日29歳

 HCAW 右右 「オランダ」 先発

 17歳でシアトルマリナーズと契約を結び、4年間アメリカマイナーの有望株として活躍していた右腕。しかし、5年目となった21歳のスプリングトレーニング際に自らのキャリアを見直しオランダに帰国。そこからはオランダホーフトクラッセのトッププレーヤーとして投げ続けている。2021年からはHCAWという古豪クラブへ移籍。1年目で3位までチームを押し上げると、今季はプレーオフを勝ち上がりオランダシリーズへ進出。優勝決定戦では9回110球2安打5奪三振で完封し、胴上げ投手となった。現在のオランダ国内では最高峰の選手だ。

 代表デビューは2016年。ハーレム、ユーロの両大会で活躍し、2017年WBCにも選ばれた。2021年の東京五輪最終予選ではベネズエラ戦に登板。先発のジャージェンスが3回途中6失点とノックアウトされた後に登板し、3回と1/3を2奪三振無失点に抑えた。オランダで敵なしの状態で、本人は今大会をきっかけにアジアのプロリーグへの移籍を望む。

 持ち球はスライダー、チェンジアップ。高速チェンジアップ気味の落ちる球は効果的。ファストボールは140キロ中盤。

試合14 防御率0.86 勝7 負1 三振99 セーブ1

ラース・ハイヤー(photo:Phrake Photography)

 

37 トム・デブロック/Tom De Blok  193cm/108kg 1996年3月8日 26歳

 ロッテルダムネプチューンズ 右右 「オランダ」 先発 

 17歳でシアトルマリナーズと契約した元プロスペクト。しかし、1年目のスプリングトレーニングで数週間を過ごした後、諸事情により契約を解除し帰国した経緯を持つ。

 帰国後はオランダ国内リーグ・ホーフトクラッセで抑えとして活躍。アムステルダムパイレーツで守護神に定着すると2016年にはクラブ対抗のヨーロピアチャンピオンズカップで胴上げ投手になった。

 2017年のWBCにも選出され、中継ぎ投手として活躍し、日本戦では当時メジャーリーガーだった青木から三振も奪った。大会での活躍を評価され、大会終了後にはデトロイト・タイガースマイナー契約。先発に転向し、シングルAを中心に3シーズンプレーするも11勝21敗、防御率3.91と伸び悩んだ。2020年からは再びオランダでプレーしている。

 持ち味は何といっても93、94マイルを計測する真っすぐ。変化球としては大きなスライダーがある。2021年の五輪最終予選では、ドミニカ共和国戦に先発登板し、6回途中5安打6奪三振2失点と好投を演じ、予選後にはメキシカンリーグのクラブと契約を結んだ。しかし、1試合の登板後に右肘を痛め、退団。右ひじの手術を経て2022年は全休となった。

 バンデンハークの引退や、リリーバーの不在もあり、彼がどこまでの状態で復帰できるのか、先発なのか中継ぎなのか、オランダ代表投手陣のキーマンとなるのは間違いない。

(2022年は全休)

トム・デブロック(photo:Henk Seppen)

 

00 デレク・ウェスト/Derek West 195cm/116kg 1996年2月12日26歳

 ヒューストンアストロズ傘下AA 右右 「アメリカ」 リリーフ 

 アストロズ傘下AAでプレーするアメリカ人右腕。母の両親が1960年代にオランダからアメリカに移住しており、母はオランダの国籍も保有しているため代表入り資格を有することとなる。祖母に代表選出を報告した際には、涙を流して喜ばれたとか。

 2019年ドラフトの14巡目で入団しており、3年間マイナーでプレー。今季オフにはプエルトリコウィンターリーグでもプレーし、17 回と2/3の登板で防御率1.02の好成績を修めている。球種はまっすぐ、カーブ、カットボール、スライダー。最高球速は156キロほどで、安定して150キロを超える速球を投げ込む。

 昨年11月の代表合宿「キングダムシリーズ」ではじめて代表活動に参加。代表での登板歴はなく、実力が未知数なところはあるが、リリーフ陣が手薄な今回の代表では、勝ちパターンのストッパーとしての役割が期待される。

試合39 防御率4.45 勝5 負2 三振68 セーブ6

 

33 ケヴィン・ケリー/Kevin Kelly 183cm/90kg 1990年5月27日32歳

 ロッテルダムネプチューンズ 右右 「キュラソー」 リリーフ

 オランダの強豪ネプチューンズのリリーフエース。キュラソー出身で2013年までアメリカの大学で勉学にいそしみながら野球をプレーしていた。その間に、オランダ開催のワールドポートトーナメントにキュラソー代表でした経験も持つ。

 その後、大学卒業を機にオランダホーフトクラッセネプチューンズへ入団。入団当初から、リリーフとして活躍。2014年オランダ入り後1年目で代表に選ばれた。国内組だけでの編成の代表ではしばしば招集されていたが、米マイナー組も含めた代表では2016年の侍ジャパン戦で初招集され、鈴木誠也に満塁弾を浴びた。2021年の東京五輪最終予選のベネズエラ戦では7回にダメ押しとなる2ランホームランを浴びた。

 2018年はイタリアリーグリミニで活躍したがそれ以降はロッテルダムネプチューンズの守護神として君臨。今季はオランダシリーズなどのポストシーズンでは先発も務めた。

 90マイルを超える速球とスライダーを織り交ぜるオーソドックスなスタイル。

試合15 防御率1.23 勝3 負0 三振45 セーブ5

ケヴィン・ケリー(photo:Henk Seppen)

 

99 ヴェンデル・フローアナス/Wendell Floranus 180cm/72kg 1995年4月16日27歳

 タイガース・デ・ルー(メキシコ) 右右 「キュラソー」 リリーフ

17歳でオリオールズと契約し、20歳までルーキーリーグでプレーするもそれ以上昇格できず。まっすぐは150キロ近く計測するも、ウイニングショットとなる変化球が乏しい。

 近年はアメリ独立リーグメキシカンリーグ、ドミニカウィンターリーグなどを渡り歩く。2020年のコロナパンデミック期には各リーグがストップする中、オランダホーフトクラッセのアメルスフォールトでもプレーした。

 代表歴は2015年のプレミア12や東京五輪最終予選などがあるが、目立った活躍はできていない。2016年には侍ジャパンとの強化試合に登板し、あの大谷翔平に東京ドームの天井に突き刺さるホームラン級の打球を打たれたのはこの人。

試合33 防御率4.76 勝3 負2 三振38 セーブ17

ヴェンデル・フローアナス(photo:Phrake Photography)

 

32 ジェイデン・エスタニスタ/ Jaydenn Estanista 190cm/81kg 2001年10月3日21歳

 フィラデルフィア・フィリーズ(Rk) 右右 「キュラソー」 先発

 フィリーズ傘下ルーキーリーグでプレーする21歳。2022年のチーム内プロスペクトランキングでは26位につけた。1年目はドミニカ教育リーグ、2年目はルーキーリーグでプレーし、登板数は少ないものの好成績を残している。

 速球の最速は98マイル(157キロ)を誇るが、変化球の精度は伴っておらず、カーブやスライダー、チェンジアップを習得中だ。

 国内組を中心に100マイルに迫る速球を投げる投手はおらず、貴重。どこまでストライクゾーンに集められるか未知数だが、ポテンシャルを存分に発揮してほしい。

試合12 防御率2.01 勝3 負0 三振35 セーブ0

 

41 ライアン・ハンチントン/ Ryan Huntington 180cm/83kg 1996年8月25日26歳

 ロッテルダムネプチューンズ 左右 「アルバ」 先発

 アルバ出身のサウスポー。アメリカの大学でプレー後、コロナのパンデミックで混乱した2020年はプレーした実績がないが、2021年からはオランダホーフトクラッセでプレー。初年度はパイオニアーズに所属し、12試合の先発で3勝5敗、防御率4.03の成績を残した。2年目はツインズに移籍。4勝9敗、防御率3.79と負け数が先行するも国内リーグの上位チーム相手にローテーションを守ったことが評価され夏に開催されたハーレムホンクボルウィークで初めてオランダ代表に選出された。大会ではアメリカ戦に先発すると、4回1/3を5安打1本塁打2失点と試合を作った。

 来シーズンは強豪のロッテルダムネプチューンズへの移籍が決まっており、WBCでは第2先発や左打者が並ぶイニングでの登板が予想される。スリークウォーター気味から投げ込むスライダーは左打者に有効となるはずだ。

試合14 防御率3.79 勝4 負9 三振71 セーブ0

ライアン・ハンチントン(photo:Henk Seppen)

 

58 アントワネ・ケリー/ Antwone Kelly 178cm/83kg 2003年9月1日 19歳

 ピッツバーグ・パイレーツ(Rk) 右右 「アルバ」 リリーフ

 ピッツバーグ・パイレーツ傘下ルーキーリーグでプレーする19歳。

 契約1年目はドミニカ教育リーグで12試合に先発し1勝2敗、防御率4.14、37イニングで奪三振は39だった。昨シーズンはルーキーリーグで主にリリーフとして10試合に登板。防御率2.31、23イニングで奪三振は29とイニングより多い三振を奪っている。

 詳細は不明だが、19歳にして90マイル中盤150キロに届く速球を投げ込んでおり、今後の飛躍が期待される投手だ。マイナーでも試合数がそこまで多く投げておらず、未知数の投手と言ってよいが、この大会でベールを脱ぐか。

試合10 防御率2.31 勝0 負1 三振29 セーブ0

アントワネ・ケリー(photo:Phrake Photography)

 

29 エリック・メンデス/Eric Mendez 183cm/79kg 1999年12月3日 23歳

 アリゾナダイヤモンドバックス(A) 右右 「アルバ」 リリーフ

 アリゾナダイヤモンドバックス傘下シングルAでプレーするリリーバー。2022年は44試合に登板し防御率3.97、ホールド2、セーブ1、奪三振は64という成績だった。

 2021年のU23ワールドカップにオランダ代表に選出され4試合にリリーフ登板するも防御率は7.64だった。特に韓国戦では5点リードで迎えた最終回に登板するも、ヒットや味方エラーで満塁とし連打を浴びて同点とされてしまい、結局チームが負けてしまうきっかけとなった。

 ストレートは150キロに迫る球速を計測し、大きく曲がるスライダー、ツーシームを操る。コントロールにはバラつきがあり、どうしても真ん中付近に集まってしまう傾向がある。

試合44 防御率3.97 勝4 負1 三振64 セーブ1

エリック・メンデス(photo:Phrake Photography)

 

51 ダイラン・ファーレイ/Dylan Farley 2021年 ⇒入れ替えにより選外

 ホーフトドルプ・パイオニアーズ 左左 「オランダ」 先発

 サプライズ選出の若手先発左腕。父親は2011年の野球ワールドカップでオランダが優勝した際の監督である米国人のブライアン・ファーレイ。母親に元ソフトボールオランダ代表でアトランタ五輪に出場したホニー・レイネンを持つ。

 現在はアメリカの大学でプレーしており、シーズンオフにはオランダに帰国しホーフトドルプ・パイオニアーズの一員としてプレーしているが、昨年は6試合のみの登板となっている。

 2022年のU23ワールドカップで代表入りすると、2試合に先発すると両試合とも1失点に抑えゲームを作った。特に韓国戦では1安打7奪三振と能力の高さを見せつけた。

 速球は安定して140キロ中盤を計測し、120キロ前後の大きく割れるカーブ、スライダーで打者を翻弄する。貴重な左腕として隠し玉的な存在になれるか。

試合6 防御率2.40 勝2 負1 三振18 セーブ0

ダイラン・ファーレイ(photo:Louie Jay Sienders)

 

17 アレイ・フランセン/Arij Fransen 190cm, 86kg 2001年5月20日 21歳

 シンシナティ・レッズA 右右 「オランダ」 リリーフ

 レッズ傘下シングルAで活躍する若手投手。代表ではリリーフが主だが、近年は先発としての登板も増えてきている。

 これまでも2019年U18ワールドカップなど世代別代表にも選ばれてきたが、フル代表は五輪最終予選でデビュー。五輪最終予選での登板は、ちょうどその週が祖父の誕生日でもあったため、祖父からミューレンズ監督に感謝の意を伝えるメールを送ったとか。投球自体は、1アウト満塁という大ピンチで登板し、押し出し死球犠飛で2点を失うも後続を打ち取った。今回はそれ以来の代表選出となる。

 スリークウォーターから投げ込む球種はまっすぐ、スライダー、チェンジアップとオーソドックなもの。まっすぐは140キロ中盤を計測する。韓国プロ野球チームとの練習試合でも好投し、入れ替えによるメンバー入りをつかんだ。薄いリリーフ陣に割って入り、チームの上位進出に貢献したい。

試合22 防御率6.96 勝3 負8 三振46 セーブ0

Arij Fransen (photo:Louie Jay Sienders)

 

55 フランクリン・ファンフルプ/Franklin Van Gurp 185cm/102kg 1995年10月26日27歳 フリーエージェント 右右 「シント・マールテン」 リリーフ

 元マイナーリーガーのリリーバー。フロリダ国際大学を経て、2017年にドラフト25巡目でサンフランシスコ・ジャイアンツから指名を受けた。

 マイナー時代はシングルAが主戦場。マイナー通算107試合に登板し、105試合がリリーフ登板で防御率は4.02、16ホールド12セーブを記録している。奪三振は250に対し、四死球が84とコントロールの優れた投手だ。

 初代表は2019年のプレミア12。その後は五輪最終予選でもメンバー入りした。

 マイナーをリリース後はオランダホーフトクラッセアムステルダムパイレーツに加入。ヨーロッパチャンジオンズカップの決勝戦では1点リードの展開で登板し、4四球、2被安打で逆転を許し、優勝を逃してしまった。

 昨年はオランダのほか米独立アトランティックリーグで2球団、ドミニカウィンターリーグでもプレーした。

 速球は平均して150キロ弱で、曲がりの大きいスライダーで空振りを狙う。

試合9 防御率1.42 勝3 負0 三振17 セーブ1

フランクリン・ファンフルプ(photo:Phrake Photography)

 

【捕手】3人

21 ダシェンコ・リカルド/Dashenko Ricardo 182cm/93kg 1990年3月1日32歳

 ロッテルダムネプチューンズ 右右 「キュラソー

守備型キャッチャーで、2013、2017WBCに続き3大会連続の選出。オリオールズジャイアンツでプレーしたが、課題の打撃がふるわず解雇になり2014年からホーフトクラッセへ。2014年はホーフトクラッセでも打率は上がらず.266だった。が、2015年は一転。打撃が開花し、リーグ2位の打率を残した。

代表は常連であり、主要国際大会はもれなく参加している。前回大会はサラガとの併用でスタメンで出ることもあったが、今回はメジャーも経験しているトロンプがレギュラーとして出場が濃厚なため、終盤での守備固め等の起用が予想される。

 数年前にはシーズン中に突如引退を表明。キュラソーに帰ると言っていたが、結局オランダに残り最後までプレーしたこともあった。

試合25 打率.302 (86-26) 本塁打2 打点13 盗塁0

ダシェンコ・リカルド(photo:Henk Seppen)

 

14 チャドウィック・トロンプ/Chadwick Tromp 173cm/100kg 1995年3月21日27歳

 アトランタ・ブレーブス 右右 「アルバ」

 メジャーを経験する今大会の正捕手候補。18歳でレッズと契約すると2020年にはサンフランシスコ・ジャイアンツでメジャーデビューすると、この年24試合に出場し13安打、4本塁打、打率.213、OPS645の好成績を残した。しかし、その後は2021年が9試合、2022年は1試合の出場に留まっている。今年出場した試合では3安打3打点2二塁打を記録したが、足を痛めそれ以降の出場のチャンスはなかった。

 代表歴は2016年のヨーロッパ選手権。オランダの優勝に貢献した。前回2017年のWBCでは予備登録選手として登録され、グレゴリウスの負傷に伴いロースター入りしたが出場はなかった。

 今大会では正捕手として期待される。メジャーの舞台で経験した投手がほとんどいない中、彼がそこを埋めるリードができるか期待される。打線でも、下位に彼がいれば非常に強力な打線になるは間違いない。

試合70 打率.253 (249-63) 本塁打12 打点41 盗塁0 (AAA)

チャドウィック・トロンプ(photo:Henk Seppen)

 

26 シクナーフ・ロープストク/Sicnarf Loopstok 175cm/97kg 1993年4月26日 29歳

 アムステルダム・パイレーツ 右右 「アルバ」 キャッチャー、ファースト

 西オクラホマ大学でプレー後、クリーブランドインディアンスから13巡目でドラフト指名され7年間マイナーでプレーした捕手。最高では2018年にダブルAまで昇格し、58試合で打率.225、9本塁打、35打点、OPS.779の成績を残したが、翌2019年にリリースされた。2021年からはオランダホーフトクラッセアムステルダムに加入。初年度でオランダシリーズ優勝に貢献した。

 代表デビューは2019年のプレミア12。そこから五輪最終予選、2022年のハーレムホンクボルウィークと続けて代表入りしている。

 パンチ力も備えた中距離打者で、ここ2年は続けて3割を超える打率を残している。正確な2塁へのスローイングも見ものだ。トロンプをバックアップする役割が期待される。

試合23 打率.320 (75-24) 本塁打4 打点15 盗塁0

シクナーフ・ロープストク(photo:Phrake Photography)

 

【内野】7人

7 シャーロン・スホープ/Sharlon Schoop 188cm/86kg 1987年4月15日35歳

 アムステルダム・パイレーツ 右右 「キュラソー」 ショート、サード

メジャーリーガーであるヨナサン・スホープの兄。2009WBCから代表入りし、2011ワールドカップでは弟と並んで6番、7番に座り優勝に貢献した。その大会の準決勝韓国戦では逆方向に3点本塁打を放ったような長打力もある。2014年のユーロでも代表入りし、ショートを務め、守備面でも高い能力を見せた。中位でのクリーンアップが残したランナーを返す、勝負強い打撃に期待したい。

 アメリカでのプレーは2018年が最後でメジャーの舞台を経験することはできなかった。2019年からはホーフトクラッセアムステルダムに加入。中軸とショートを務め、オランダシリーズでは決勝のホームランを放つなど主力として活躍した。来年はアムステルダムのメインスポンサーが撤退し高給を支払うことが難しくなるが、去就が注目される。

 メジャー組の強力内野陣の中で、出番は限られるだろうが、どこまで存在感を示せるか。

試合23 打率.300 (80-24) 本塁打4 打点19 盗塁3

シャーロン・スホープ(photo:Henk Seppen)

 

18 ディディ・グレゴリウス/Didi Gregorius 185cm/84kg 1990年2月18日32歳

 フリーエージェント 右左 「キュラソー/オランダ」

 レジェンドジーターの後継者として5年ほど強豪ニューヨーク・ヤンキースショートストップを務めた選手。高い身体能力を生かしたショートでの守備とパンチ力を秘めた打撃が売りの選手だ。

 2011年IBAFワールドカップでオランダが優勝した際には、2番ショートとして美技を披露しチームの優勝に大きく貢献した。

 メジャーリーグでのキャリアはシンシナティレッズで始まり、ダイヤモンドバックスで2年間ショートのレギュラーとして奮闘した。その後チームのキャプテンであり正ショートのジーターが引退したヤンキースに後継者と目されてトレード移籍。移籍1年目は安定した守備でレギュラーを勝ち取ると、2年目からは3年連続で20本塁打以上を記録した。

 前回大会では1次ラウンドの台湾戦では5対4とビハインドの8回裏に同点となるタイムリ二塁打を放ったのが印象的な活躍だ。今大会も下位打線で貴重な役割を担う。

試合63 打率.210 (214-45) 本塁打1 打点19 盗塁1

ディディ・グレゴリウス(photo:Henk Seppen)

 

9 アンドレルトン・シモンズ/Andrelton Simmons 188cm/77kg 1989年9月4日 33歳

フリーエージェント 右右 「キュラソー」 ショート、サード

 世界ナンバーワンショート。ゴールデングラブ賞をはじめとしたメジャーの守備関連の賞の常連だ。投手として160近いボールを投げていた強肩をいかしたダイナミックなプレーが自慢だ。

 ドラフト時、各球団が投手として彼を指名する中、唯一内野手として指名したのがブレーブス。3年目にメジャー昇格を果たすと、月間優秀新人賞を獲得するとその勢いのままレギュラーを獲得した。2013年にはオランダ代表に初招集。1番ショートとして全試合に出場すると、キューバ戦では値千金の同店2ランホームランを放つなど大活躍。その試合にサヨナラ勝利したオランダはベスト4入りを果たした。

 前回大会でも主に1番ショートとして出場。2次ラウンドの日本戦、準決勝のプエルトリコ戦のいずれも2安打を放ち打線を引っ張った。

 2020年まではロサンゼルス・エンゼルスに所属し、大谷翔平のチームメイトとして日本のファンにもおなじみ。今大会で日本と対戦し、大谷投手と相まみえるのが楽しみだ。

試合34 打率.173 (75-13) 本塁打0 打点7 盗塁4

アンドレルトン・シモンズ(photo:Louie Jay Sienders)

 

7 ヨナサン・スホープ/ Jonathan Schoop 185cm/88kg 1991年10月16日31歳

デトロイト・タイガース 右右 「キュラソー」 セカンド、ファースト

 パンチ力を秘めた大型セカンド。メジャーの舞台で4年連続20本塁打以上、2017年には160試合に出場し打率.293、32本塁打、105打点を記録したスラッガーだ。

 代表入りは4度目。1度目は2011年のワールドカップ。サードのレギュラーフィンス・ローイが負傷したため、急遽レギュラーに抜擢された。安定した活躍はできなかったが、決勝のキューバ戦で値千金のセンター前タイムリーを放ち優勝に大きく貢献。兄シャーロンと6,7番で並んで打線をはった。

 2度目は2013年WBC。一回り成長したヨナサンは2番セカンドのレギュラーとして2本のホームランを放った。この大会の活躍がその後のメジャーでの活躍の足掛かりになったのは間違いない。前回大会でも対日本戦で石川投手からホームランを放っている。

 年齢も30歳を過ぎ、昨年はレギュラー定着以来最低の成績だった。WBCを足掛かりにこれまでの輝きを取り戻すシーズンにしたい。

試合131 打率.202 (481-97) 本塁打11 打点38 盗塁5

ヨナサン・スホープ(photo:Henk Seppen)

 

2 サンダー・ボガーツ(ボーハーツ)/Xander Bogaerts 191cm/84kg 1992年10月1日30歳

サンディエゴ・パドレス 右右 「アルバ」 ショート、サード

 現在のメジャーでも屈指のショートストップ。2014年にレギュラーを奪って以来、打率3割超えが4回、本塁打20以上も4回と強豪ボストンの不動のショートストップとして君臨してきた。2023年からはパドレスへ移籍。

 オランダ代表は前回大会来3度目。2013年WBCでは、まだ打撃が粗削りで結果を残すことができなかったが、2017年には主に3番として打線の中軸を担った。ただし、打率は.227と印象的な活躍はできなかった。

 今大会でも3番などの中軸に入ることが予想される。バレンティンが大ベテランの域に達しており、数年前のような第一線での活躍が期待できないため、彼の役割がより大きくなる。本職はショートだが、前回大会は豪華な内野手の中で、シモンズがいるためサードで起用された、今回も同様の起用が予想される。

試合150 打率.307 (557-171) 本塁打15 打点73 盗塁8

サンダー・ボーハーツ(photo:Henk Seppen)

 

13 ジュレミ・プロファー/Juremi Profar 185cm/83kg 1996年1月30日 27歳

 レオン(メキシコ) 右右 「キュラソー」 サード、ファースト

 ジュリクソン・プロファーの弟。2013年にテキサスレンジャーズとマイナー契約で入団。2019年までの7年間プレーしたが、メジャー昇格は果たせなかった。主戦場はダブルAで通算成績は297試合で打率.262、30本塁打、144打点、OPS.699だった。マイナーリリース後は中南米ウィンターリーグメキシカンリーグなどでプレーしている。

 代表デビューは2016年秋に開催された侍ジャパンとの強化試合。その後は2919年のプレミア12、2021年の五輪最終予選で選出されたが、目立った活躍はできていない。

 マイナーでも年間二桁の本塁打を打つパンチ力を持ち合わせている。内野の最強布陣を考えるとスタメンでの起用はほとんどないため、試合終盤での代打起用などが予想される。

試合6 打率.261(23-6) 本塁打0 打点2 盗塁0

ジュレミ・プロファー(photo:Phrake Photography)

 

40 ザンダー・ウィール/Zander Wiel 190cm/99kg 1993年1月11日 30歳

 ハイポイント・ロッカーズ(米独立) 右右 「キュラソー」 ファースト、レフト

 父親にキュラソー出身の元バスケ選手・指導者を持つアメリカ人選手。

 ミネソタ・ツインズより12巡目でのドラフト指名を受け、9年間マイナーレベルでプレーした。最高位のトリプルAでは、143試合の出場で打率.248、本塁打27、打点85、OPS.813の成績を残した。今季はアメリカ独立のアトランティックリーグで32本塁打98打点を挙げている。

 オランダ代表歴はなく、今回が初めての選出となる。これまでオランダ代表のファーストはベテランのデカスターやスミスが務めてきたが、彼らも年齢により引退。その穴を埋める存在となり得る。 トリプルAでは1シーズンで24本塁打を放った年もあり、長打力に期待できる一方、三振数が多く四球が少ない。こうした点もマイナーを解雇された理由と言えるだろう。

試合115 打率.260 (384-100) 本塁打32 打点98 盗塁11

ザンダー・ウィール(photo:Phrake Photography)

 

【外野】4人

4 ウラディミール・バレンティン/Wladimir Balentien 188cm/100kg 1984年7月2日38歳

無所属 右右 「キュラソー」 レフト、ライト

 日本シーズン最多本塁打記録保持者。いわずと知れたヤクルトの最強助っ人だ。

 2013年大会ではWBCに合わせて早めに調整したためシーズンに入っても体調が万全で後半にバテず、夏場に本塁打を連発日本球界最高の60本を記録した。2017年大会でも4番としてチームをひっぱり、日本戦、準決勝のプエルトリコ戦でそれぞれ重要な局面で本塁打を放ち、勝負強さを改めて示した。

 日本球界ではヤクルト在籍9年間で8度の30本塁打以上とレジェンド級の成績を残したが、2020年から移籍したソフトバンクホークスでは、2年間で14本塁打、打率は1割台と低迷し、日本球界を離れている。昨シーズンはメキシカンリーグでプレーした。

 今大会での現役引退を表明しており、昨シーズンはハーレムホンクボルウィークで代表入りし、WBCに向けて入念に準備している。40代に差し掛かるベテランが、最後に勇姿を見せられるか。

試合18 打率.231 (65-15) 本塁打4 打点11 盗塁1

ウラディミール・バレンティン(photo:Phrake Photography)

 

10 ジュリクソン・プロファー/Jurickson Profar 183cm/83kg 1993年2月20日29歳

フリーエージェント 右両 「キュラソー」 レフト、ショート、セカンド

 トッププロスペクトから着実に階段を登ったメジャーリーガー。アンドリュー・ジョーンズに憧れて野球を始め、2004年にはリトルリーグ・ワールドシリーズでエースとして活躍しチームを躍進させ、準優勝に輝いた。帰島すると島はお祭り騒ぎだったとか。

 内野手としてテキサスレンジャーズと契約すると、メジャーの有望株として名をあげられるようになった。2013年のWBCでは球団の許可が下りなかったのか、最初から出場することはできなかったが、怪我人の代替として準決勝にのみ出場した。

 2017年大会ではセンターで全試合出場。同世代の代表メジャーリーガーのほとんどが内野手のため、外野もできるプロファーはが外野の中心として攻守でチームを引っ張った。くしくも、2020年のサンディエゴ・パドレス移籍後は、所属チームでも外野での出場が増加。今大会でもレフトでの出場が予想される。

 前回大会では主に2、3番として打線を引っ張ったが、準決勝のプエルトリコ戦では初回に痛恨のボーンヘッドをやらかし、接戦を落とす一因ともなった。むらっけを無くし、集中力を極めた先に上位進出が見えてくるはず。

試合152 打率.243 (575-140) 本塁打15 打点58 盗塁5

ジュリクソン・プロファー(photo:Henk Seppen)

 

50 ロジャー・バーナディナ/Roger Bernadina 188cm/95kg 1984年6月12日 38歳

 ロッテルダムネプチューンズ 左左「キュラソー」 センター、ライト

 世界を渡り歩く元メジャーリーガーの守備職人。

 18歳でモントリオール・エクスポズに入団。24歳でメジャーに上り詰め30歳までの7年間で548試合に出場、打率.236、28本塁打、121打点、OPS.661を記録した。特にセンターの守備力は飛びぬけたものがあり、勢いよくダイブしてフライをキャッチする姿に“シャーク”の愛称で親しまれた。

 2017-2018年の2年間は韓国プロ野球起亜タイガースでプレー。2年連続打率3割超え、計51本塁打を放ち優良助っ人として活躍した。その後もメキシカンリーグ台湾プロ野球などを経て現在はオランダホーフトクッラセでプレー。シュアな打撃とダイナミックなセンター守備は健在。

 WBCは2013年ぶりの出場。前回出場時は3番打者としてまだ若かったシモンズやボガーツを引っ張った。今回は下位打線と外野のリーダーとしての役割が求められる。

試合38 打率.364 (140-51) 本塁打0 打点30 盗塁9

ロジャー・バーナディナ(photo:Henk Seppen)

 

77 ジョシュ・パラシオス/Josh Palacios 185cm/90kg 1995年7月30日 27歳

 ピッツバーグ・パイレーツ 右左 「キュラソー」 ライト

 父はプエルトリコ人の元野球選手で、母がキュラソー出身。ブルックリン育ちのアメリカ人。リッチーの兄。

 2016年にトロント・ブルージェイズからドラフト4巡目で指名を受けた。2021年にメジャーデビューするまでは5年間マイナーで研鑽を積んだ。トリプルAの通算成績は98試合で打率.286、9本塁打、50打点。メジャーでは2021年に13試合の出場。2022年にはワシントン・ナショナルズに移籍し29試合に出場したが、未だ確かな爪痕は残せないでいる。今季からはパイレーツへの移籍が決まっている。

 オランダ代表は初選出。2022年秋にキュラソー島で行われた代表合宿“キングダムシリーズ”に参加し、チームメイトとのコミュニケーションは問題ない。今大会では弟共に外野の両翼を担うことが期待される。

試合29 打率.213 (47-10) 本塁打0 打点2 盗塁1

ジョシュ・パラシオス(photo:Phrake Photography)

 

【ユーティリティ】2人

3 リッチー・パラシオス/Richie Palacios 178cm/81kg 1997年5月16日 25歳

 クリーブランドガーディアンズ 右左 「キュラソー」 レフト

 父はプエルトリコ人の元野球選手で、母がキュラソー出身。ブルックリン育ちのアメリカ人。ジョシュの弟だ。

 2018年にインディアンスがドラフト3巡目で指名。マイナーがコロナにより活動停止となった影響もあり、実質マイナーリーグでの経験は2018年と2021年のみ。トリプルAでの成績は82試合の出場で、打率.284、5本塁打、48打点、OPS.838。

 2022年には念願のメジャーデビューを果たし、54試合に出場した。今後更なる飛躍が期待される若手外野手である。

 代表選出は初めてで、兄と同じく2022年秋のキングダムシリーズに参加している。

 大会ではレフトを任されることが多くなるはず。

試合54 打率.232 (112-26) 本塁打0 打点10 盗塁2

Richie Palacios (photo:Louie Jay Sienders)

 

11 レイパトリック・ディダー/Ray-Patrick Didder 175cm/90kg 1994年10月1日

 マイアミ・マーリンズ傘下 右右 「アルバ」 センター、ショート、サード、セカンド

 18歳児にアトランタ・ブレーブスと契約を結び、それから10年間マイナーでプレーしてきた。主戦場だったダブルAAの通算成績は、333試合で打率.233、20本塁打、107打点。

 代表デビューは2019年のプレミア12。守備面では外野とショートをこなし、安打も2本放っている。2021年のヨーロッパ選手権では打率.435、2本の本塁打を放った。

 内外や守れるユーティリティとしての選出で、不測の事態にも十分対応できる。また、昨季は26個の盗塁を決めているため、終盤での代走起用にも対応できる選手だ。

試合109 打率.241 (390-94) 本塁打12 打点42 盗塁26

レイパトリック・ディダー(photo:Phrake Photography)

 選手の写真は以下の写真家の皆さんから提供いただいています。この場を借りてお礼申し上げます。

○ヘンク・セッペン/Henk Seppen

オランダ国内で活動する写真家。野球以外にも様々なスポーツを撮影。前回のWBCではオランダ代表を追いかけながら撮影。過去には熊本で開催されたハンドボールのワールドカップにも来日して撮影した。

 

○フレーク・ボウ/Freek Bouw

アメリアリゾナ在住のオランダ人写真家。アリゾナでのスプリングトレーニングや、マイナーリーグの試合を中心に撮影活動を行っている。

 

○ルイー・ジェイ・シーンデルス/Louie Jay Sienders

ネプチューンズで捕手としてプレーするかたわらクリエイティブな動画・写真撮影、作成を行い代表の広報活動を担っている写真家。彼が広報の職に就いてから代表のプロモーションも幅が広がっている。

 

オランダに”プロ”野球リーグ誕生!? ~エクスパンション・プロ化~

 「これからはメジャーでも、セリーグでもなく、パリーグです。」そう言い放ったスター、新庄剛志が引退以来14年ぶりに球界に復帰した。新庄効果は絶大で、彼の一挙手一投足に野球ファンのみならず、多くの人が心を躍らせ、ちょっとしたことでも話題となっている。一人のスターの存在だけで、こんなにも野球というスポーツに光が当てられるのか、と驚くのと共に、彼のまじめなインタビューの受け答えや裏話を聞くと、同郷人として誇らしげな気持ちになる。私の母は、「なぜホークスが監督にしなかったのか」と憤慨していたが、そりゃホークスは無理ですばい。

 

 さて、個人的には10数年も前から「これからはメジャーでも、日本プロ野球でもなく、オランダホーフトクッラセですばい。」と思ってきたが、それを成し遂げられるようなスター選手は未だ登場していないし、オランダ国内ですら野球リーグの人気は上がっていない。

 2021年シーズンもアムステルダムパイレーツの優勝で幕を閉じ、入れ替え戦で2部に降格になるチームも決まった。さあ、ここから移籍市場が動き出すぞ、と思った矢先。ビッグニュースが飛び込んできた。なんと、入れ替え戦に敗北したシリコン・ストークスが降格せずに、昇格するRCHペンギンズを加えて9球団で2022年シーズンを実施するというのだ。

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リーグ残留が決まったシリコン・ストーク

 これはいわばエクスパンションだ。しかし、ただのエクスパンションではない。クローズドリーグ(米式スポーツリーグ)化とプロ化を伴うエクスパンションだ。

 

 オランダシリーズ真っただ中の10月5日、各球団のオーナーが招集され、ホーフトクラッセの経営に関するオーナー会議が開催された。ここで議論されたのが2022年からのクローズドリーグ化とリーグのプロ化だ。

 来年からはメジャーリーグや日本プロ野球NPB)と同様に、チームの順位に関わらず、2部リーグとのチームの入れ替えは廃止。プロ野球チームとして最低限度の施設・財源を有する球団のみがホーフトクラッセに参入できる、と決めた。

 

 この決議がなされた後、10月16日の入れ替え戦にてストークスが敗北。もちろん10月5日のオーナー会議にはストークス球団も参加していたわけだから、来年からの新生ホーフトクラッセに参加する気は満々。降格なんか知ったことか、となったわけだ。王立オランダ野球ソフトボール協会(KNBSB)は頭を悩ませたことだろう。こうした八方ふさがり状況で、苦肉の策として9球団での2022年シーズン実施、という折衷案が持ち出されたのではないかと推察する。いわば、意図しない形でのエクスパンションである。

 果たして、こんな行き当たりばったりで本当にプロ化が進められるのだろうか。9球団で実施するといってもチーム数が奇数になるため、毎カード1チームは試合ができなくなってしまう。現在のレギュレーションでは、毎週1カード3試合が行われており、この方式を継続するのであれば1週間試合がないチームが生じてしまう。詳しい日程は発表されていないが、どのように工夫して日程を決めるのだろうか。

 

 更には、プロ化に向けた一番の課題が財政面。協会幹部は、“トップスポーツ”としてオランダ五輪委員会から更なる支援を受けられると説明する。しかし、本来五輪委員会から支援金が受けられるのは、オランダ代表選抜選手等の強化選手のみ。リーグやクラブに支援金が支給されるわけではない。ましてや、野球はパリ五輪の正式種目から除外されている。野球に対して予算を拡大してもらえる積極的な要因は何一つない。各球団の経営努力により、スポンサーからの更なる支援を引き出すか、より良いスポンサーとの契約をするしか、球団経営に対する財政的な拡大策はあり得ない。

 ホーフトクラッセでは突然メインスポンサーが撤退するのも珍しくない。オランダの野球の聖地ハーレムを本拠地としたキンハイム。このチームにはコレンドンというトルコ系格安航空会社がスポンサーとしてついていたが、2016年に突如として撤退。主力選手がほぼ全員流出し、ホーフトクラッセから球団自体も離脱した。現在は同じハーレムに本拠地を置くDSSと連合でリーグに復帰しているが、当時のような強いチームには戻れていない。

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ハーレム連合チームとして参加しているキンハイムとDSS

 こうした事態を招かないためには、ファンを獲得し、入場料等収益性を挙げなければならない。成功例はL&Dサポートというコンサルティング会社がスポンサーを務めるアムステルダムパイレーツだ。どのチームも毎試合100人も観客動員できれば御の字だが、アムステルダムは平均的に300~500人を動員。オランダシリーズでは1000人超を動員している。結果としてL&Dサポートは2009年からスポンサーを務めて以来、来季で13年目に突入する。もちろん元々根付いている地域のファンに支えられているとはいえ、野球博物館やレストラン、室内練習場を整備するなど球団の経営努力も一役買っているはずだ。

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大勢の観客が入るアムステルダムの試合(photo:Henk Seppen)

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パイレーツの創始者の名を冠するルーク・ルーフェンディーボールパーク(photo:Henk Seppen)

 アムステルダムのように成功を収める球団はごく一部。この現状を協会幹部はどう分析しているのだろうか。協会幹部はコロナ下での改革の成果を力説する。その一つがホンクボルTVの成功。コロナ禍のロックダウンに伴い、無観客での試合を余儀なくされたホーフトクラッセ。協会はこの事態に素早く対応し、ホンクボルTVという、毎試合ライブ中継を無料視聴できるコンテンツを整備した。私もこれには大いに期待したが、蓋を開けてみるとひっくり返った。バックネット裏に設置した固定カメラの映像を垂れ流すだけという何ともロークオリティな代物だったのだ。外野にボールが飛ぶと画面上から見失ってしまい、普段野球を見ているファンからすると見るに堪えないのだから、野球になじみがない層からすると論外。こんなもので新たなファンの獲得などできるはずもない。

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ホンクボルTV

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ホンクボルTV中継画面。普段の野球中継に慣れているとなかなかの見づらさ。

 ただ、スピード感は評価したい。イタリアやドイツなど球団ごとにライブ中継を実施しているようなところはあるが、リーグ全体でこうしたライブ中継コンテンツを作ったのはホーフトクラッセが初めてだろう。

 リーグ優勝決定戦であるオランダシリーズは、国内でもある程度の注目度があるため、オランダ公共放送(NOS)で生中継される。その映像と比べると、ホンクボルTVは見れたもんじゃない。今後は、ホンクボルTVの“成功”を、少しでも大成功に近づけるために、より良いものにしていってほしい。

 

 おおむね協会のリーグ発展構想自体には賛同する。キュラソーアルバを含めた外国人選手の受け入れルールの改善や、上位チームに有望選手が固まり出場機会が限られているため、レンタル移籍なども含めた移籍制度の改正にも賛成だ。各チームの戦力均衡を図り、リーグ全体のレベルを上げていく方針に間違いはない。

 しかし、現実的視点が抜け落ちていることに多くのファンより懸念の声が出ている。過去に現実的視点が抜け落ちていた結果、大失敗した例がある。メジャーリーグの公式戦誘致を試みたホーフトドルプ新球場の建設がそれ。建設したものの、収容人数は常設で1万人。仮設観客席でプラス2万人としていたが、途中で財源的問題に直面し頓挫。しまいにはイギリスロンドンにヨーロッパ初のメジャーリーグ公式戦開催の座も奪われた。

 

 今度はホーフトクラッセのプロ化・エクスパンションという目標を頓挫させないためにも、現実的視点を持ち、少しずつ少しずつより良いリーグにしていって欲しい。何はともあれ2022年の新生ホーフトクラッセが今から楽しみだ。

オランダ国営テレビ生中継で蘭国民が注目!?~2021オランダシリーズ~

 日本プロ野球NPB)では、両リーグとも昨年再開のチームが優勝し、いよいよクライマックスシリーズが始まろうとしている。野球の本場アメリカでは五輪での休止期間がなかったため、一足先にポストシーズンまで終了。アトランタブレーブスワールドシリーズを制した。

 

 ヨーロッパのオランダでは、年間42試合という試合数が少ないこともあり、8月末にペナントレースが終了。9月は3つの国際大会があったため、その合間を縫って上位4チーム、下位4チームに分かれてのプレーオフ、プレーダウンが実施された。

 上位4チームに入ったのは2強のアムステルダムロッテルダム。そして、若手有望株の多いHCAWとツインズ。プレーオフは1位と4位、2位と3位が対戦。その勝者同士がオランダシリーズに進むという流れだ。

 

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プレーオフA順位表

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プレーオフB順位表


 プレーオフAは、シーズン1位のネプチューンズが地力の差を見せつけ、ツインズをスイープで退けた。プレーオフBは3位のHCAWが大健闘。先に2勝を挙げ、オランダシリーズ進出に王手をかけたが、土壇場で2連敗を喫し下剋上でのオランダシリーズ進出を逃してしまった。しかし、強豪アムステルダムに対して打ち勝つ試合もあったり、来年につながる試合となったのではないだろうか。例年、オフには選手の流出が多いHCAW。来年の優勝を狙うのであれば、今季の主力を残留させることができるかが、非常に重要なポイントだろう。

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オランダシリーズ2021

 さて、今季のオランダシリーズもおなじみの顔ぶれでの対決となった。アムステルダムロッテルダムの対戦は2016年から6年連続となった。その間の対戦成績はネプチューンズの3勝、アムステルダムの1勝だ。昨年2020年は、オランダシリーズ開催期間中に蘭政府による緊急事態宣言が発令され、惜しくもシリーズ打ち切りとなり異例の優勝チームなしとなった。シーズン1位のネプチューンズのほうが選手層の厚みがあることは明白だが、アムステルダムもシーズン終盤にかけてオランダ代表でもあるマーティスやシャーロン・スホープが合流した。大方の予想としても第6、7戦までもつれるだろうとの見立てだったが、その通りの結果となった。

 最終第7戦までもつれた結果、アムステルダムが逆転での優勝。第1戦から簡単に振り返ってみたい。

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オランダシリーズ第1戦

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オランダシリーズ第2戦


 ネプチューンズは1戦目2戦目と連続でマークウェルを先発投手として起用した。2戦目までの間に中5日空いていたことからこの起用になったが、結果として裏目に出た。アムステルダムは1戦目にマーティス、2戦目にスルバランを先発起用。両投手とも、現役のオランダ代表投手ということもあり、マーティスが完封、スルバランが1失点完投という最高の結果をもたらした。元代表左腕の大ベテランマークウェルも、両試合とも最低限の失点で防いだが、アムステルダムの勝負所での得点に泣いた。特に2戦目はランペの1発が大きかった。

 

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オランダシリーズ第3戦

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ケフィン・ケリー投手(photo:Henk Seppen)

 3戦目、ネプチューンズは一か八かの大勝負に出た。なんと代表でもリリーバーを務めるケリーを先発投手として起用したのだ。これは、オランダシリーズを何度も経験しているネプチューンズの得意技で、過去にもリリーフエースファンドリールを先発起用し、彼のシリーズMVPとなる活躍で優勝を手にしたことがあった。この経験を思い起こしたのかわからないが、なんとこの試合をケリーの完封劇でものにしたのだ。得点は初回に相手先発マーティスのワイルドピッチと、レオノラの内野ゴロの間に手にした2点だけ。力強いまっすぐを主体に9奪三振の圧巻のピッチングだった。普段見られないケリーの長いイニングの投球。こうしたレアケースを見られるのもオランダシリーズの魅力だ。

 

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オランダシリーズ第4戦

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カイ・ティメルマンス投手(photo:Henk Seppen)

 そして第4戦。先発はお互いに若手投手。お互いにU23オランダ代表メンバー。ネプチューンズがデフロート、アムステルダムがデフラーウ。しかし、ネプチューンズ先発のデフロートは初回に2失点。その後もコントロールが安定せずドタバタしていた。ここで思い切ってティメルマンスにスイッチ。彼も本来先発投手で、代表にも選出される選手だ。3回から9回途中までを無失点で投げ抜き、打線も大爆発。これで勝敗を2勝2敗の五分に戻した。シーズンでは見られない思い切った投手起用でネプチューンズに流れが大きく傾いた。

 

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オランダシリーズ第5戦

 第5戦はマークウェルが3度目の先発。10安打を浴び4失点を喫するも、打線がスルバランから小刻みに得点し勝利。これで王手をかけた。流れは完全にネプチューンズ。第3戦で先発したケリーは本来の守護神として登場しセーブを挙げるなど、大車輪の活躍だ。

 

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オランダシリーズ第6戦

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カリアン・サムス外野手(photo:Henk Seppen)

 勝負の第6戦は場所をアムステルダムに移した。この試合はオランダ公共放送の生中継もあり観客も1000~1500人近く動員しただろうか。終盤にかけて盛り上がりも出てきた。ネプチューンズは先発投手に1週間前にロングリリーフで好投したティメルマンスを持ってきた。アムステルダムは同じくデフラーウ。まだまだ安定して140キロ以上の速球を投げられないデフラーウ。ブークハウトに特大のツーランを浴び先生を許してしまう。しかし、アムステルダムの主砲カリアン・サムスが反撃のソロホームランを放つと、5回には打線が爆発。ネプチューンズのセンターダーンティのエラーもあり一挙6点追加で逆転。アムステルダムは守護神のフロートが6回途中からロングリリーフしそのまま逃げ切った。

 

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オランダシリーズ第7戦

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シャイロン・マーティス投手(photo:Henk Seppen)

 両チーム泣いても笑っても最後となった7戦目。ネプチューンズはまたしても守護神ケリーを先発起用。アムステルダムは身内の結婚式で一時キュラソーに帰島していたマーティスがとんぼ返りの大移動で先発登板。両者とも好投していたが5回表にアムステルダム犠牲フライで先制すると、続くチャンスで主砲サムスが決勝スリーランホームラン。代表でも主砲としてオランダを引っ張って来たサムスが勝負所での格の違いを見せつけた。

 ネプチューンズも今年で引退する元代表選手のファンドリールが8,9回を完璧にリリーフするなど粘りを見せたが一歩及ばず。マーティスがまたしても9回を投げ切り優勝投手に。キュラソーからとんぼ返りしたとは思えないパフォーマンスを見せた。

 この両チームのオランダシリーズは毎度6,7戦目までもつれ、見ているほうはほんとにハラハラした戦いになることが多いが、今シーズンも期待を裏切らない戦いを見せてくれた。オランダ代表を引退したサムス、マークウェル等が元気な姿を見せ、オランダ公共放送での生中継も7試合中3試合。アムステルダムでの試合は観客動員も1000人を超えた。少しずつオランダホーフトクラッセも魅力あるリーグとしてオランダ人に浸透していくのを願うばかりです。

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優勝を喜ぶアムステルダムナイン(photo:Henk Seppen)

 そんな中、この裏で行われた2部リーグとの入れ替え戦デンハーグに本拠地を置くストークスが敗北。本来なら2部へ降格なのだが、このまま残留し、ストークスを撃破したRCHペンギンズを1部に加え、来季は9球団でホーフトクラッセが行われるというビッグニュースが飛び込んできた。試合数は増えるのか?1チームは毎週余って試合がないチームが出てくるのか?など、いろいろな疑問が出てくるが、それはまた次回の記事で語っていきたい。

 

MLB契約へのアピールなるか?~U23ワールドカップオランダ代表~

 運命の1日。プロ野球を目指すべての野球選手にとってそう呼ばれるドラフト会議。今年は何球団も競合する目玉と呼ばれる注目選手はいなかったが、それでもほとんどの野球人が固唾をのんで指名の瞬間を見守った。各選手の背景にはそれぞれのドラマがあり、それぞれの運命の1日はまさにドラマチックだ。

 

 さて、海の向こうのオランダ。ここの野球選手にとって運命の1日と呼べるような日は存在しない。オランダが国内のプロ野球と呼べるホーフトクラッセ(実態としてはセミプロ)に入るのにドラフト制度はなく、欧州のサッカークラブと同じように、自由にどこの球団とでも契約ができる。一般的にはユース時代から所属してきた球団の1軍にそのまま昇格する形でプロデビューを果たすのが通常ルートだ。

 ただ、有望なオランダ人選手のほとんどが“プロ”としてプレーするのを夢見て、アメリカを目指す。最も有望な選手たちは16~18歳でMLB球団とマイナー契約をするが、それに漏れた選手はアメリカの大学でプレーしMLBのドラフトを目指す。しかし、高校からMLB球団と契約するよりはるかに難易度が高く、これまで大学経由でドラフトにかかった選手は近年ではスタイン・ファンデルミール(ネプチューンズ)のみ。現状、高校時代に圧倒的なポテンシャルを示すしかMLB球団と契約する術はないようなものだ。

 

 そんな雲をつかむような限られた可能性に挑戦している選手たちが集結し、世界の大学世代の野球選手権とでもいうべきU23ワールドカップが開催された。メンバーの中心はオランダ国内リーグホーフトクラッセでプレーする選手たち。その半数近くはアメリカの大学でもプレーし、大学のシーズンオフにオランダに帰国しホーフトクラッセでプレーしている。

 オランダ代表は9月上旬に開催されたU23ユーロで優勝し、そのメンバーにMLB傘下マイナーでプレーする選手を加えて大会に臨んだ。結果は10位。欧州ナンバーワンのチームとして臨んだ世界の舞台だったが、競合と渡り合うためにはまだまだ力不足が露呈した形だ。

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オランダ代表試合結果

 この大会で露呈したオランダの弱点は守備力だった。フル代表では、鉄壁の内野陣を活かすため、投手はテンポよく投げ込み、打たせて取るスタイルだが、この世代ではそのスタイルに当てはめることが難しかった。

 象徴的な試合が第2試合目の韓国戦だ。オランダが7-2でリードしていた最終7回裏、ノーアウトでヒットを許した後、ゲッツーコースのショートゴロが飛んだ。それを遊撃手のセラッサがファンブル。2アウトランナーなしとなる場面でピンチが広がり、その後一気に同点に追いつかれる発端を作ってしまった。更には、延長でタイブレークとなった8回1アウト2,3塁からファーストゴロが転がると一塁手のジャマニーカがホームへ暴投、これがサヨナラの得点となり敗北した。この2戦目に仮に勝利していれば、スーパーラウンド進出の可能性も広がっただけに、韓国戦での敗戦は非常に痛かった。何より、この2つのエラーで負けたのは今回の代表の象徴的なプレーと言ってよかった。

 

 守乱はこれだけではない。コロンビア戦で初出場したマルティー捕手はパスボール等を繰り返し試合後半は集中力が完全に切れていた。また、内野の要であるショートではセラッサとファンデサンデンが大会の半分、それぞれ4試合ずつ出場したが、両者ともいいプレーがありつつもエラーも複数見られた。また、外野手のリップはチェコ戦でライト前に飛んだヒットを後ろに逸らし、走者一掃の三塁打にしてしまった。と、守備の乱れを言い出すと枚挙にいとまがないが、この守備力では上位を狙うのが難しかったのもまた事実だろう。

 

 その中でもディフェンスで存在感を示したのが二塁手のケンプと捕手のヤンセン。ケンプは安定したフィールディングでショートの二人をカバーしたし、ヤンセンは献身的なブロッキングとキャッチングで投手陣を引っ張った。

 ケンプはフル代表常連のドゥエイン・ケンプの弟で、まだ19歳。国内ツインズでプレーしている。打撃のほうもスピードを活かした攻撃ができる選手であるので、これからの成長が楽しみな選手の一人だ。

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タイリック・ケンプ内野手(photo:Alfred Cop)

 ヤンセンアメリカの大学でもプレーしており、国内ではツインズに所属。シーズンオフには日本でプレーするバンデンハークの練習相手を務めている。大学リーグでも守備部門の優秀賞を受賞するなど守備型キャッチャーとして活躍しており、捕手に人材が不足しているオランダフル代表にも入ってこられるだけの守備力を兼ね備えている。WBCではメジャー経験もあるトロンプがレギュラーキャッチャーを担うだろうが、彼不在だとベテランのリカルド、ロープストックらが現状の捕手陣だ。打撃面の能力を向上させれば、オランダの甲斐拓也として、代表に割って入ることができるだろう。

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デイフ・ヤンセン捕手(photo:MvW.Fotografie)

 

 打線で一人気を吐いたのはセラッサ。全試合3番に入り、打率.346と唯一3割を超えた。U18でも代表経験があり、U23代表はこれが2度目の選出。アメリカの大学でもプレーしているが、今季はホーフトクラッセでも本塁打3本放っている。これまで通算僅か1本だったのを考えると、倍増以上。長所の打撃面を向上させ、ホーフトクラッセで圧倒的な数字を出せば、ポストドゥエイン・ケンプとして、フル代表に選出されるのもそう遠くない未来に実現できるだろう。

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デラーノ・セラッサ内野手(photo:Henk Seppen)

 また、同じショートとして4試合、DHとして3試合に出場したファンデサンデンはエラーもした一方で、1イニング3つのショートゴロを軽快にさばいたり、非凡な守備力も垣間見せた。この大会では打率.158と、数字は残せなかったが、いい当たりが正面を突いたり、好守にはばまれたりと、不運な面もあった。ホーフトクラッセではここ4年で3回3割以上の打率をマークしている。アメリカの大学で守備の安定性に磨きをかければ、守備職人として代表を支えたマイケル・デュルスマのような存在になり得る。

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トミー・ファンデサンデン遊撃手、タイリック・ケンプ二塁手

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トミー・ファンデサンデン内野手(photo:MvW.Fotografie)

 長打力を見せたのはマイナー組だ。前回のU23でも活躍したマルティーナは、今年のヨーロッパ選手権でフル代表デビュー。今大会では打線の中心として期待されたが、前半戦はヒットが出ず苦しんだ。終盤のチェコ戦で待望のホームランが出たが、強豪ひしめくオープニングラウンドで打棒が鳴りを潜めたのがチームとしては非常に痛かった。

 意外なスピードを見せたのはミシェル。ボテボテの内野ゴロでも、右打席から内野安打できるだけのスピードの持ち主だった。ドイツ戦ではホームランも放ち、最年長24歳として意外な活躍を見せた選手だった。

 

 ただ、打線全体としてみると、リードオフマンでフル代表にも選出されたリップがあまり出塁できなかったり、主軸として期待されたジャマニーカが大会を通じてノーヒットに終わったり、想定していたような戦いができなかった。U23ヨーロッパ選手権で成功した打線の並びが機能せず、主砲のマルティーナの不調。これがオープニングラウンド敗退の主要因だったと言ってもいいだろう。

 

 一方の投手陣。先発で白星がついた投手は一人もいない。韓国戦に先発したクラハトが4回を2失点に抑え降板したが、最終回に追いつかれ白星がつかなかった。先発陣に総じて言えることは、球速とスタミナ不足だ。先発陣で140キロ以上を計測したのはマドゥロ、ポステルマンス、クラハトら3人だが、平均して140キロを超えた選手は一人もいなかった。特にクラハトは初回に141キロを計測して以降、1球も140キロ超はなかった。先発登板したクラハト、プリンス、デフラーウは今季ホーフトクラッセで先発登板をしている投手だけに、期待外れな内容に終わった。

 その中、意外な好投を見せたのがポステルマンス。ツインズで先発ローテーションを担う彼は、2試合に先発し8イニングと2/3を6被安打8奪三振3失点。勝ち星さえつかなかったが、緩急をつけながら試合を作る投球を展開した。

 ただ、全体的に言えることは他国と比べた圧倒的なスピード不足。ファストボールプロジェクトを立ち上げ投手陣の球速・レベルアップに注力しているだけにこの結果は残念。デフラーウも90マイルを超えたとの情報があったはずだが、、、

 

 一方でリリーフ陣には光明も見えた。カシミリ、メンデスのマイナー組が150前後の速球を見せつけたのはもちろん、フル代表にも選出された国内組のデフロート、ホネッシュが145キロ近い威力ある球を投げ込んでいた。両者とも所属するチームでは先発も経験しているが、今大会では大事な場面でリリーフとして登板し相手の攻撃の流れを止める役割を担った。

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ジオジェニー・カシミリ投手

 デフロートは大きなスライダー、チェンジアップと伸びのあるフォーシームで三振の山を築いた。大会中4イニングで9奪三振、無失点は圧巻の数字だ。

 ホネッシュは90マイルに迫るカッターで打たせて取る投球を繰り広げた。被安打9、7失点と数字は伴わなかったが、内容や登板した場面が厳しかったことを考えると致し方ない。弱冠19歳のこれからが非常に期待できる投球だった。

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ジェイデン・ホネッシュ投手

 参考に、最高球速が140キロを超えた投手を載せておく。

 カシミリ153キロ

 メンデス148キロ

 デフロート146キロ

 ホネッシュ144キロ

 コク144キロ

 バケル144キロ

 マドゥロ143キロ

 ポステルマンス143キロ

 クラハト141キロ

 

 リリーバーではデフロート、ホネッシュ以外にもコク、バケルらが奮闘。彼らも平均して140キロを超える速球を投げ込んでいた。中継ぎ投手はフル代表でもスタイフベルヘン、ファンミルらが引退し、手薄になっている。マーティス、ケリー、フローラヌスらが何とか穴を埋めている状況だ。ただし、彼らだけでは、WBCを勝ち上がっていくのは至難の業だ。150キロを超えるカシミリ、さらなる成長が期待できるデフロートやホネッシュの中から将来のオランダ代表勝ちパターンが生まれるのを期待したい。

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ラフ・コク投手



 

 チームとしては、十分な成績を残せなかった今回のU23オランダ代表。しかし、一人ひとりのプレーヤーを見ていくと、オランダ代表の未来につながるような選手も見られた。彼らが今後アメリカの大学で成功を収め、MLBと契約できるのか。はたまた、アメリカンドリームを諦め、オランダのホーフトクラッセで爪を研ぐことになるのか。いつの日か、WBCでオランダのユニフォームを身に纏った彼らの姿を想像し、これからも彼らの勇姿を追いかけていきたい。

”世代交代”の象徴U23世代とHCAW旋風 ~2021オランダ投手タイトル~

 政治の世界では自民党の総裁選を控え、各総裁候補者たちが様々なメディアに出演し、論戦を繰り広げはじめた。総裁選の後は、衆議院総選挙が予定されており、自民党政治の継続か、政権交代か、日本の政治も大きな転換点に差し掛かりつつある。こと10数年前の日本では、民主党が“政権交代”というキーワードを前面に打ち出した。あらゆる演説でこのワードを訴えかけ、日本国民の新しい政治への期待を煽り、遂には初の“政権交代”を成し遂げた。

 

 さて、私もここ最近オランダ代表の“世代交代”をあらゆる場面で訴えかけている(笑)。しかし、実際に東京五輪最終予選に敗退して以降、王立オランダ野球ソフトボール協会(KNBSB)も“世代交代”に大きく舵を切り始めた。もはや、この“世代交代”は、オランダ代表を元のステージに戻すため、更にはネクストステージへ押し進めるためのパワーワードとなっている。

 

 今季、2021年。代表からコルデマンス、マークウェルという、レジェンド級の左右エースが引退し、この言葉の実現が少しずつ近づいてきている。実際に投手十傑には今までにない顔ぶれが並ぶ。

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2021個人投手十傑

 規定投球回NPBMLBと同じ、試合数の42回にした場合、最優秀防御率に輝くのはナウト・クラハト投手。L&Dアムステルダムに所属する彼は、現在20歳で2019年にはU18ワールドカップで代表、今年はU23ユーロで代表に選ばれている。140前半の速球、スライダー、チェンジアップを駆使するオーソドックスな投球スタイルの投手。五輪最終予選で好投したトム・デブロック投手がメキシカンリーグへ移籍すると、その穴を埋める形で先発ローテーションへ加わった。防御率1.66、5勝2敗の成績を収めた。

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ナウト・クラハト投手(photo:MvW.Fotografie)

 他にも同じ世代で台頭した選手がいる。パイオニアーズのスコット・プリンス投手。防御率2.06で4勝1敗。アムステルダムのジオ・デフラーウ投手。防御率2.55で5勝1敗。この3人に共通しているのは全員がファストボールプロジェクトという投手育成チームのメンバーということ。若手投手の球速アップや技術力向上を目的に設立したこのプロジェクトは、投球をデータ化して解析したり、アメリカでの合宿を行うなどして若手投手の育成を行っている。現に、ジオ・デフラーウ投手は既に90マイルを超える速球を投げているうえ、他にもさらに下の世代の投手で90マイルを超える投手がチラホラ出てきている。

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ジオ・デフラーウ投手(photo:Alfred Cop)

 伝統的に野手はキュラソーアルバ、バッテリー陣はオランダ本国、という構図になりやすかったオランダ代表だが、これまでのそうした特性を維持できるよう若手投手の育成に注力してきた成果が芽生えてきているのだ。

 既にフル代表に選出されたネプチューンズのアーロン・デフロート投手もそのメンバーの一人で、規定投球回未定ながら防御率1.83、3勝2敗と好成績。昨年まではリリーバーを務め、今年からは先発に回ったが、どちらの役割もこなせるのは代表に選出されても使い勝手が良い。身長は低いが、西武ライオンズの平良投手のように威力あるまっすぐはヨーロッパ選手権でも各国の強打者が苦戦を強いられていた。

 9月23日からU23ワールドカップが開幕するが、この4投手はもれなく選出されている。これまでのU23代表には、ホーフトクラッセで成績を残している投手は多くなかった。こうした未来ある投手たちが世界を相手にどこまで通用するか見物であるし、一人でもMLBの球団と契約できるような選手が出てくればいい。

 

 ただし、そんな若手の突き上げもある中、圧倒的なMVP級の成績を見せつけたのがHCAWに移籍したラルス・ハイヤー投手。コルデマンス、マークウェル去りし後、オランダ代表の中心になっていくのが彼なのは間違いない。これまでのWBCなどの国際大会での結果を見ると、90マイル前後の速球では抑えるのが難しく、得意のスライダーも捕らえられる印象が強かった。しかし、東京五輪の最終予選では負けたら終わりのベネズエラ戦にリリーフ登板し3回1/3を2奪三振無失点に抑え、試合の流れをオランダに引き戻す好投をした。シンカーを中心に低めに集め、ボールが飛びやすいといわれるメキシコの休場も考慮したのか、ゴロに打たせて取る投球が光った。

 今シーズンは防御率や勝利数もさることながら、投球イニングは106回2/3で、完封2回を含む完投3回、奪三振も断トツの128個で圧倒的な数字だった。五輪最終予選でドミニカ相手に好投を見せたデブロックとともに、今後のオランダ代表の先発陣の中心になってもらわないと困る選手だろう。

 ベテランのマークウェルや、同じ代表で先発投手のスルバランも防御率や勝利数では彼と変わらない成績だが、被打率や奪三振数、投球イニングなど、様々な指数をみていけばハイヤーのピッチングの質が最高だったのは一目瞭然。投手から今シーズンのMVPを選ぶならば間違いなくハイヤーだろう。後は、現在行われているプレーオフであと1勝すればチームがオランダシリーズへの切符を勝ち取る。初めての大舞台で活躍する姿を期待したい。願わくば、デブロックVSハイヤーを見たいものだ。

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ラルス・ハイヤー投手(photo:Line Drive Capture)

 リリーフピッチャーでは、目立ったのはHCAWのニック・クール投手だろうか。U23代表には選ばれたことのある左腕だが、フル代表選出歴はない巨漢投手だ。今期は守護神として6セーブを挙げ、チームの躍進に大きく貢献した。現在、マークウェル引退後、左腕投手が不在だ。貴重なリリーフ投手として代表に必要とされる人材なのは間違いない。来年も安定的にパフォーマンスを発揮できれば、代表招集も夢ではないだろう。

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ニック・クール投手(photo:MvW.Fotografie)

 こうして見ると、躍進したHCAWは先発ローテーションが3人ハイヤー、プルーヘル、ブルヘルスデイクと揃い、守護神にクールとピッチングスタッフの貢献度は非常に高かった。しかし、2強のアムステルダムネプチューンズにも、クラハト、デフロート、デフラーウなど、次世代を担う若手投手が出てきており、来年以降、チームの中心となっていけるか、順調に“世代交代”を進めていけるか、今から楽しみだ。

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勝利数

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奪三振

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セーブ数

個人成績も上位2チームが独占?! ~オランダ2021打撃タイトル~

 前回の記事でも書いた通り、例年ホーフトクラッセは上位チームと下位チームの差が大きく、下位チームは大きな戦力補強をしない限り上位4チームに入ることすら難しい。そのため、オランダ代表選手などは、ほとんどが上位4チーム、とりわけネプチューンズアムステルダムに所属している。これは、個人タイトルを見ても一目瞭然だ。

 

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2021個人打撃十傑

 実際に今季、打撃十傑に入る選手(今回は9位が同率3人のため11人)のうち、7人はネプチューンズアムステルダム、2チーム所属の選手だ。資金力に勝る上位2チームが代表選手等を囲い込んでいるのが実情だ。下位チーム所属であっても、タイトルを取るほどの選手が出てくれば、たちまち上位チームに引っ張られる。こういった形で、資金力の差が、ここ20年程の蘭球界は如実に表れている。

 

 その中で、かつてネプチューンズでプレーし、代表選手等から活躍の場を奪われ、下位チームに移籍した選手が、主力としてタイトルを奪還した。ツインズのシャーマン・マーリンだ。

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シャーマン・マーリン内野手(photo:Henk Seppen)

 アルバ出身のマーリンは2014年にホーフトクラッセデビュー。初ホームランは何とオランダシリーズでの一発だった。しかし、その後ブークハウトやデクーバら代表経験もある選手が加入すると出場機会を求めて移籍する。2018年からはツインズに加入し、主軸として成長してきた。29歳の今季、打率は.273ながら7本塁打を放ち、本塁打王に輝いた。2年ぶりにプレーオフに進出したツインズの中心として、若手の多い打線をまとめあげた。代表経験はない選手だが、こうして下位チームで成長し、タイトルホルダーになったのはホーフトクラッセにとっていいこと。もっともっとこうした選手が出てきてほしい。

 

 ただ、今年のMVP候補、ホーフトの顔だったのはやはり代表選手。デンゼル・リチャードソン外野手だ。東京五輪の最終予選にも選出され代表メンバーとしての定着が期待される選手だが、打率、打点、最多安打のタイトルを総なめにした。42試合のフルスケジュールで.438のハイアベレージは驚異的な数字だ。また、盗塁も21個決めており、抜群の身体能力を生かしたプレースタイルが魅力的な選手だ。

シントマールテン出身の28歳で、コロラドロッキーズ傘下でプレー経験があるが、ルーキーリーグ止まりで芽が出なかった。2015年にリリースされた後は、アメリ独立リーグでプレー。2018年にホーフトクラッセDSSに加入し、打率.343、6本塁打と活躍を見せると強豪アムステルダムに移籍した。普段はジムのパーソナルトレーナーとしてアスリートを指導しながらシーズンを過ごしている。オランダ代表の外野陣もオデュベル、サムスが代表引退、バーナディナも37歳。彼が国内でパフォーマンスを維持し、MLB組不在の国際大会では中心となるべき選手だろう。

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デンゼル・リチャードソン外野手(photo:Line Drive Capture)

また、昨年からネプチューンズのショートとして定着したポローニアスは首位ネプチューンズリードオフマンとして不動の活躍だった。安定した守備が特徴的な選手だが、パンチ力も秘めた打撃も安定している。彼もサンフランシスコジャイアンツ傘下でプレーしたが、シングルAが主戦場。リリース後はイタリアボローニャでプレー。昨年からオランダに移籍し、代表にも入るようになった。守備、打撃両面でファンデルミールを上回り、彼を代表引退に追いやったが、ポローニアス自身もすでに30歳。MLB組抜きの代表では彼やダールがショートを守るが、セラッサ、ファンデサンデンら大学世代の内野手も育ってきている。

 セラッサ、ファンデサンデンは、シーズン序盤アメリカの大学でプレーする。ホーフトクラッセに出場できるのはシーズン中盤からだ。両選手とも少ない打数ながらセラッサが.299、ファンデサンデンが.369と高打率をマーク。U23ユーロでは二遊間コンビでオランダを優勝に導いた。今月下旬からはU23ワールドカップが開催される。そこで活躍し、さらなる飛躍、将来的にはポローニアスからフル代表でのレギュラーを奪うところまで期待したい選手たちだ。

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トミー・ファンデサンデン遊撃手(photo:MvW.Fotografie)

 また、HCAWからランクインしている2人は、チームを躍進に導いた2人。彼らが2、3番として機能したおかげでオランダシリーズ進出まであと一歩のところまで来ている。

 特に今シーズンパイオニアーズから加入したフィクター・ドライアーは、昨年コロナによる短縮シーズンながら、打率.500でMVPを獲得した選手だ。もともとはアムステルダムでセカンドを守っていた選手だが、昨年パイオニアーズに移籍し、才能が開花した。今年も打率.326でフルシーズンでは初めて3割を超えた。既に28歳で中堅選手ではあるが、ハーレムホンクボルウィークやワールドポートトーナメントなど、オランダ主催国際大会で代表デビューさせてみたい選手だ。タイプ的には元代表選手のバス・デヨング、日本では内川誠一選手など、広角に打ち分けられる中距離打者だ。彼もまた、リチャードソンと同じく、高齢化が進む代表外野陣に風穴を開けられるよう、ホーフトクラッセで奮闘してほしい。2022シーズンはアムステルダムへの出戻りがあるかもしれない。

 

 下位チームのストークスからは若いジャマニーカ選手が打撃十傑にランクインした。U23にも選ばれており、彼も来年以降の上位チーム移籍が予想される。パンチ力があるはずだが、本塁打は0。デンハーグの本拠地は球場が2面あるため、両翼が100m超でセンターが110mほどしかない。その分フェンスは高いが本塁打が出にくい球場ではないはず。もっと打球が上がるようになると、さらなる成績向上、フル代表選出にもつながるだろう。

 

 今年の打撃十傑を総じてみると、代表常連選手にリチャードソン、ドライヤーなどのニューフェイスが台頭してきた。更には、規定打席に到達していない大学世代の活躍もある。代表の世代交代に向けて少なからず希望の持てるシーズンだったと言えるだろう。

 来年はこうした選手がどこまで成長できるか。更にはアメリカの大学で活躍する選手たちがホーフトクラッセで主力となれるか。それとも、大学を経由してMLBとの契約を勝ち取ることができるだろうか。これまでアメリカの大学を経てドラフトにかかった選手はファンデルミールぐらいだ。どちらにしても、彼らの成長がオランダ代表のネクストステージに不可欠だ。

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ルーク・ルーフェンディーボールパーク(photo:Line Drive Capture)

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本塁打

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打点

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最多安打

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盗塁

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OPS