蘭野球事始 ~オランダ野球風説書~

自称日本一オランダの野球に詳しいブログ

オフシーズンのオランダ選手

2014-03-22 22:13:32 の記事です。

 

 関東では春一番が吹き、高知では桜が開花。ようやく春がそこまでやってまいりました。春を祝う、楽しい花見の時期ももうじきです。が、数日前、野球を愛する人々にとっては一足先に一種のお祭りが開催されました。前回の記事でも紹介した、「世界の野球写真展」です。オランダ野球という何ともコアな話題について語ることのできる貴重な時間でありましたし、ほかの国の野球の知識に触れて刺激にもなりました。一方で、オランダ野球というものの魅力は僕だけじゃなく、ほかの人々にもしっかりと届いているのだな、ということを確認できる機会にもなりました。そのためにも、僕がそれを少しでも伝えていけるように努力しなければならないなと、思うに至りました。

 

 さて、本題に入りたいと思います。今回は「オフシーズンのオランダ選手」と題うったのでありますが、一般的に、完全なプロリーグでない欧州の野球選手たちのオフシーズンの姿は想像するに難い。写真展でも、そのことについてはよく質問されました。今回はそこに光を当てようということで、オランダ代表にとっても重要な二人の選手を例にとってオフシーズンのオランダ選手を見ていきたいと思います。

 

 まずは余談を。オランダ代表常連で第二回WBCのメンバーでもあるフィンス・ローイ。彼のオフの姿はプロテインやプロテクター等の様々なスポーツ製品の開発販売を行っている会社の経営者です。野球と関係してはいますが、直接プレーと関係してくるものではありません。一経営者としてオフの時間は過ごしています。オフの時間は野球のため、生活のために、働くのがオランダ・ホーフトクラッセでプレーする大半の選手たちの実状でしょう。もちろん冬の間でも所属しているクラブの室内練習はありますし、代表選手は代表で集まって練習もしているのでご心配なく。
 しかし、ご承知のとおり、オランダの冬の気候は極寒です。雪が降り運河は凍ります。もちろん、グラウンドも例外ではありません。冬のあいだはまともに野球ができる状況ではないわけです。それゆえ、室内で練習する他ないのです。しかし今季、この状況に対して新しい試みをした選手が二人います。

 

 一人目はコレンドン・キンハイムで昨年左のエースとして活躍したニック・フェルトカンプ。彼は昨年のワールドポートトーナメント(2年に一度オランダが主催する国際大会)でキュラソー代表に参加したという縁もあって、キュラソーウィンターリーグに参加しました(彼自身は生粋のオランダ人)。このリーグは全8チームが20試合を戦うもので、上位はプレーオフを行います。このリーグに参加している面々はと言うと、キンハイムで彼がバッテリーを組んでいるラミロ・バレンティナ、オランダ代表のデカスター、スタティア、リカルド、サイモン、そしてシモンズの兄やホーフトクラッセADOの一員レオノラ、ミッチェル、オビスポなどなど。
 フェルトカンプはワイルドキャッツ(Wildcats)というチームに所属しました。詳細な成績は確認することができませんでしたが、シーズンを通してチームのエースとして活躍したようです。ワイルドキャッツはシーズンを2位で通過し、プレーオフはサンタマリアロサ・インディアンスに3勝2敗で勝利。優勝決定戦に進みます。相手はバレンティーナ率いるサンタマリア・パイレーツ。フェルトカンプは第1戦と第4戦に先発。第1戦は2回6失点で敗戦投手になってしまいます。3連敗で迎えた第4戦は初回にホウベルトに3ラン本塁打を許し早々と先制を許しますが、その後は立ち直り8回を3失点でゲームを作ります。しかし、9回にチームは勝ち越しを許し、全敗で優勝を逃してしまいました。
 チームとしては優勝を後一歩のところで逃し後味の悪いものとなってしまいました。が、フェルトカンプにとっては普段はなかなか屋外でプレーできる状態ではない時期に、オランダ代表やマイナーリーガークラスの選手たちと対戦できたのは非常に大きな経験になったのではないでしょうか。現在、オランダ代表に主力と言える左腕は、WBCで韓国やキューバから白星を上げたマークウェル一人だけ。彼も30を超えてきており、彼に続く左腕の先発投手が不可欠です。先発投手という観点から見ても全体的に高齢化してきています。昨季のホーフトクラッセで9勝防御率1点台と、飛躍を見せた彼は、オランダ代表にとっては非常に重要な存在。また、そうした存在のフェルトカンプが先駆者となって、オランダとキュラソーの双方的な関係がもっともっと可能性を孕んで、広がっていくきっかけになるのではないでしょうか。

 

 そして二人目は、オランダ代表のキャッチャー、バス・ノーイ。彼はどんなオフシーズンを過ごしたかというと、オーストラリアのとあるリーグに参加していました。リーグの名前はBaseball South Australia。所属したチームはKensington Cardinalsといいます。このリーグはアデレードが州都である南オーストラリア州のリーグで、12チームが全30試合を戦います。ABLに出ている選手も試合がない期間はこの南オーストラリアリーグに出場しています。オーストラリア代表選手なども参加しているリーグなのです。今季は元マイナーリーガーであり、台湾、そしてオランダのネプチューンズでもプレーしたトム・ブライスがノーイのチームメイトとしてプレー。また2013WBCオランダ対オーストラリアで先発したドゥシャン・ルジックは彼のライバルチームに所属していました。因みにこれに似たようなリーグがオーストラリアではいくつか見られ、オーストラリア代表クラスも出場しているようです。
 ノーイが所属していたケンジントンはぶっちぎりで優勝を飾り、彼はそのチームの正捕手としてチームを支えました。彼の守備が一級品なのは誰もが認めるところですが、打棒でも恐怖の下位打線として活躍しました。26試合に出場し打率は.354で18打点1本塁打。優勝チームの正捕手として立派な成績を残しています。また、優勝決定戦では2点本塁打を放ち大きく勝利に貢献、大舞台に強いことも証明してみせました。
 オランダのレジェンドであるシドニー・デヨングが引退した後、オランダ代表最大の課題は正捕手。そうした中で正捕手候補のノーイがオランダから見て地球の裏側のオーストラリアで打撃に成長の証を見せていることは朗報ではないでしょうか。また、オフシーズンの期間を無駄にせず野球に向かい合う彼の姿勢はオランダ代表首脳陣に対して大きなアピールであり、ライバルたちにもいい刺激になるでしょう。彼のこうしたオフシーズンの有効活用がいい見本になると良いのですが、、、生活面、資金面で問題もあるでしょうから安易には言えませんが。
 では、なぜオーストラリアだったのかという疑問も有りましょう。オランダ球界とオーストラリア球界の仲は意外と親密です。今回ノーイのチームメイトであったブライスはもちろんルジック、マーフィーなどが以前はオランダ・ホーフトクラッセでプレーしていましたし、現在ではネプチューンズにワイズWise、パイレーツにマウデーMowdayが所属しています。こうした縁があって今回ノーイもプレーするチャンスを得たのだと推測できます。現在の野球界がいかにグローバル化しているのかも垣間見えますね。

 

 今回は、オランダの選手のオフシーズンの過ごし方を見てきましたが、彼ら二人が新しい試みでオランダのオフシーズンを変えようとしています。この試みは必ずオランダ球界に好影響を与えるものでありましょう。今後も応援していきます。私たちの側にも楽しみが増えますから。また、オフシーズンという観点から、オランダと海外との繋がりも見えてきました。やはり、何かしら縁を持っているといろんなところで生きてきます。それは大事にして行くべきですし、さらに新しい縁を作り広げていってほしいものです。それが将来は何かの形で日本に繋がって来れば、、、独立リーグNPBか。果たして、、、